憎悪、悲しみ、苦しみ…愛する人を失うというのはとても辛いことなのだと思った。ましてや自ら命を絶つとなると残されたものは当然苦しみを背負うのだ。
雪がしていることは間違っているし肯定するつもりはない。
だが、その苦しみをどこへぶつけていいのか彼女は葛藤していたのだろう。
どうしようもない感情を復讐という選択をすることで何とか保っていられたのだ、と。
「私は…友達だと思ってるよ」
「そう。それは勝手にどうぞ」
雪はそう言ってつばきへ包丁を向けた。
「京様にはあまり大切な人はいないと思った。だから数年して京様に大切な人が現れなかったら…私は京様を殺すつもりだったの。少なくとも京様が亡くなれば一条家の人たちは悲しむでしょうから。そんな時につばきちゃんが現れた。本当に運命だと思ったの!京様はつばきちゃんに夢中で心底愛しているように思えたから。いったでしょう?つばきちゃんにも好きな人が出来て嬉しいって」
「…そういう意味だったんだね」
「そうよ。ぜーんぶ復讐のため。京様には一生後悔してもらう。一条家の人たちだって、長男が結婚しようとしている人が殺されたとなれば世間体もあるでしょうし相当ダメージがあるでしょうね。ところで、凄く静かだね。叫ばないの?逃げないの?」
「逃げないよ。これでいいの、これで…」
つばきは目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、愛する人の顔だった。