それは初めて聞いた雪の過去だった。
雪には姉がいて事故で亡くなったと聞いていたが嘘だったのだ。雪の顔は苦悶でどんどん歪んでいく。姉を理不尽な理由で失ったことへの絶望をヒシヒシと感じる。
「自ら命を絶つような人ではないの。姉が亡くなったと聞いた時、すぐに一条家内で起こっていたことを思い出した。姉は使用人の中で酷い嫌がらせを受けていた。それを一条家の人たちは知っていたはず。なのに放置した。何故なら一条家の人たちも貧しい田舎町出身の姉には冷たかったから。たまに会う姉は酷くやつれていて…きっと心が限界だったのだと思う」
「…でも雪ちゃん、どうして…私なの?」
「そうだよね。今の話につばきちゃんは関係ないよね。知ってほしかったの。大切な人を亡くす痛みを…。お姉ちゃんが一条家に働いていた時、確かに一条京はいた。だから姉を知っているはず。別に一条家と使用人たちを全員殺しても良かったんだけど…それだと意味がないでしょう。本当に大切な人を亡くした痛みを知ってほしい、それが復讐になると思ったの。一条家では長男である京様が爵位を継承する。一番重要な人物でしょう?」
「…なるほど」
「説教しないの?なんかつばきちゃん変わってるよね。こんな状態でもあまり狼狽えてないように見える」
「そんなことない。雪ちゃんがそんなことするなんて思ってなかったから。友達だから余計に…」
「はは、友達だなんて思ってなかったよ。ごめんね?」
友達ではないといった雪につばきは心の中で雪の笑顔を思い描いた。やっぱりいつの雪も笑顔だった。