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京の髪がほんの少し伸びたように感じながら、今日は大丈夫だろうかと不安な日を過ごすと当然ストレスが蓄積され体調を崩す。寝不足の日も続き、食欲も減退する。
みこは対照的に完全復活一歩手前のようで、朝から以前ほどではないが精力的に家事に励む。

「つばきちゃん、顔色悪いけど大丈夫?仕事なら他の人もできるし部屋で休んだ方がいいよ」
「…うん、ありがとう。じゃあちょっとだけ休もうかな」

庭園の手入れをしていると、雪に声を掛けられる。ちょうど今日は気温も高く、それも相俟って具合が良くないのかもしれないと思った。
雪は「任せて!」と張り切って仕事を代わってくれた。
自室で休んでいると、みこが「つばきさん、開けてもいいですか」と襖の向こうから声を掛ける。つばきはどうぞとすぐさま返事をした。

「体調が悪いのですか」
「いえ、ちょっと寝不足で…でも、それ以外は特に」
「そうですか。しばらく私の食事を作ってくれてありがとう。助かったわ」
「いえいえ、大したものは作っていないので…」
「そんなことない、本当に美味しかったわ」
そう言われると照れない方が無理だ。つばきは口元を緩める。
「もしあなたも体調がそぐわないのであれば言ってちょうだい。私が食事を担当するわ」
「いえ!そこまで体調不良ではないですし普通に食べられます」
「そう。でも何かあったら言ってくれると私も助かるの」
みこはここまで言うと仕事へ戻っていく。
つばきはやはりその言動に疑問符を浮かべる。


…―…


つばきの体調を心配してか、京は出来るだけ外出を控えるようになった。
つばきはみことは違い風邪等で体調を崩しているわけではないため、周囲に心配をされると申し訳ないという気持ちになる。

「…京様は、本当に無事なのだろうか…」

縁側に座りながら、風に当たる。
目を閉じていると、激しい頭痛がして思わず顔を顰める。
眠れていないことから頭痛がするのだと思ったが、自室で横になった方がいいと思い立ち上がる。
ゆらゆらと歩いていると、バタバタと誰かがこちらへ近づいてくる音がした。
「雪ちゃん?」
「つばきちゃん!大変、京様が!」

雪は今にも泣きそうな顔をしてつばきの元にくるとそう叫ぶ。
直ぐに“あの映像”が思い出される。
自然にガタガタと身体が震える。
(どうしよう、京様に何かあったら…私が殺されるはずだったのに、)

混乱と恐怖と不安に吐き気がした。
雪に手を引かれ走って京の元へ向かう。
「京様にっ…なにが、」
聞きたくないのに、でも知らねばならないという狭間で揺れ動きながらなんとか震える唇からそう言った。