みこの部屋に入るのは初めてだ。
襖に手をかけ、失礼しますと声を掛けようかと思ったが寝ていたら起こしてしまうと思った。一度気になると行動に起こせなくなってしまった。
(部屋の前においておくだけでもいいかしら…)
と。

「あら、つばきさん」
「なつきさん」

ちょうど洗濯物を運んでいる最中のなつきがつばきを見つけ声を掛けてきた。
落ちついた雰囲気は変わらない。どうかしたの?と聞かなくともつばきの顔とお盆の上のお粥を見れば状況は理解できたのだろう。すぐに言葉を続けた。

「多分みこさんは起きていますよ。起きてなくとも枕元に置いておけば大丈夫です」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「いいえ。みこさん誰かが風邪をひくと毎回しっかり食べなさいと口酸っぱく言うのに今回は二日目以降はほとんど口にしなくなったの…体調がそれほど悪いのかもしれない」
「そうなんですね」

もしかすると今回自分が作った食事はほぼ食べられないかもしれない。
出来れば食べてほしいのだけれど、それほど体調不良なのだと思うと心配になる。
なつきが去ってからそっと声を掛けた。
中から声がしないことから眠っているのだと思った。ゆっくり音を立てないように襖を開けた。



広々とした和室内に鏡台、箪笥など一般的な女性の生活に必要なものが目に入るが、ものは少ないように思った。そして布団の上で眠るみこを見てつばきは眉尻を下げ小さく息を吐いた。
早く良くなればいいのに、と強く思った。失礼しますと小声で言ってからみこの部屋の中に入り近くにお盆を置く。

「早く良くなってくださいね…」

ちいさく呟いてからみこの部屋を後にしようとすると、突然みこが目を開いた。

「…っわ、」

みこはすっとつばきに顔を向け、「わざわざありがとう」と言った。
「み、みこさん!起きていたんですか」
「ええ、そうよ。ごめんなさいね、驚かせて」

みこは上半身を起こしたがひどく痩せていた。頬がこけているし、顔色も悪い。体調が悪いのだろう。

「お医者さまから頂いたお薬を飲んでそれからたくさん食べて早く良くなってください」
しかしみこは表情を曇らせた。
「今日はあなたが作ってくれたのよね?」
「…ええ、そうですが」
「そう…」

何かを悩んでいるような様子だった。

「食事はこれからはあなたに頼んでいいかしら」
「それは…問題ありませんが」
「良かった。頼むわね」