「ああ!そうだ、つばきちゃん怪我は大丈夫だった?」
「翔様!!」
「怪我?」
だが、その雰囲気は翔の一言で一変する。
京の目の色が変わった。それでなくとも勘のいい京がこの発言を見逃すわけがない。
「あ…の、それは、」
「あぁ、ごめん。そうだった」
わざとなのかそうでないのかはわからない。翔は掴み所のない人だ。
ぴりつく空気の中、飄飄としている翔を見てつばきは観念したように息を吐いた。
「どういうことだ。それはこの間、膝を怪我したことか?だとすれば…このことをどうして翔が知っている?」
「んー、それはねぇ、会ったからだよ。でも、心配ないよ。たまたま会っただけでその時につばきちゃんが転んでしまったんだよ」
「……」
咄嗟の嘘だろうがこの時の翔の様子を見て彼は演技が上手いのだと思った。顔色一つ変えずにそう言った彼を尊敬すると同時に少し怖くも思った。
「でもほら、京君嫉妬深いでしょう?今日もつばきちゃんの首筋見てびっくりしたよ。こんなに跡つけなくても京君のものだってわかるって」
しかし、今はつばきの能力について既に京と共有している。だから話せば理解してくれるだろう。
その後しばらくしてから翔は帰っていった。
「じゃあまた来るよ」
「別にこんなに頻繁に来なくてもいい」
「京君にも会いに来てるんだからそんな冷たいこと言わないでよ」
「“にも”ってなんだ。やっぱりつばきに会いに来ているのだろう」
「この屋敷にいるみんなってことだよ」
ウィンクする翔を睨むようにして見送る京と翔は傍から見るとやはり“親友”のように見える。仲がいいのだろうしお互い信頼しているように思う。だからこそ、翔が“犯人”のようには思えないのだ。
「あぁ、そうだ。京君は女性関係ちゃんと清算してるの?」
玄関先、帰り際の会話がどうしても引っかかっていた。
嫉妬というのもあるだろうが。
「しているに決まっているだろう。そもそも特定の女性と深い仲になったことはない」
「まぁそうだね。京君はそういう男だよね。それが今じゃ…」
「な、何でしょうか」
「いやいや、随分と幸せそうで」
そう言って背を向け片手をあげて去っていく翔にひらひらと手を振り返した。
だが、すぐに京にその手を掴まれる。
「え、っと、」
「翔に…手を振る、それだけなのに」
「あ、…はい」
京の言動に首を傾げる。不機嫌そうなオーラが出ているのはわかっている。
「先ほどの翔様の発言ですが、嘘をついておりました。ごめんなさい。京様に関わる人物について翔様にお聞きしたくて…勝手に会いました。先ほどの翔様は咄嗟に嘘をついてくれたのですが…」
「あぁ、何となくわかっていた。今は何故その行動に出たのか理由がわかるから二人で会っていたことを想像すると苛つくが我慢する」
その代わり、と言って手を握られたまま顔が近づく。
ほんの少し顔の筋肉が緊張して、でも唇に柔らかい感触が広がると全身が脱力したようになる。
触れるだけのキスのはずだったが、京が顔を傾け片手をつばきの後頭部にやる。
「…っふ…ぅ、」
深いキスが繰り返され、甘い吐息が漏れ出る。
すると…―。
「ちょっと、今は通っちゃダメ!」
「あああ、京様とつばきさんがああ!」
コソコソと話し声が聞こえるが(女中たちだろう)本人たちが思っている以上に声はこちらへ届いている。
慌てて離れるつばきだったが、
「京様!こういうところでは…」
と、頬を膨らませ怒った顔を見せる。そんなつばきを見て京は「分かっている。今日くらい許せ」と言って頭を撫でた。
「翔様!!」
「怪我?」
だが、その雰囲気は翔の一言で一変する。
京の目の色が変わった。それでなくとも勘のいい京がこの発言を見逃すわけがない。
「あ…の、それは、」
「あぁ、ごめん。そうだった」
わざとなのかそうでないのかはわからない。翔は掴み所のない人だ。
ぴりつく空気の中、飄飄としている翔を見てつばきは観念したように息を吐いた。
「どういうことだ。それはこの間、膝を怪我したことか?だとすれば…このことをどうして翔が知っている?」
「んー、それはねぇ、会ったからだよ。でも、心配ないよ。たまたま会っただけでその時につばきちゃんが転んでしまったんだよ」
「……」
咄嗟の嘘だろうがこの時の翔の様子を見て彼は演技が上手いのだと思った。顔色一つ変えずにそう言った彼を尊敬すると同時に少し怖くも思った。
「でもほら、京君嫉妬深いでしょう?今日もつばきちゃんの首筋見てびっくりしたよ。こんなに跡つけなくても京君のものだってわかるって」
しかし、今はつばきの能力について既に京と共有している。だから話せば理解してくれるだろう。
その後しばらくしてから翔は帰っていった。
「じゃあまた来るよ」
「別にこんなに頻繁に来なくてもいい」
「京君にも会いに来てるんだからそんな冷たいこと言わないでよ」
「“にも”ってなんだ。やっぱりつばきに会いに来ているのだろう」
「この屋敷にいるみんなってことだよ」
ウィンクする翔を睨むようにして見送る京と翔は傍から見るとやはり“親友”のように見える。仲がいいのだろうしお互い信頼しているように思う。だからこそ、翔が“犯人”のようには思えないのだ。
「あぁ、そうだ。京君は女性関係ちゃんと清算してるの?」
玄関先、帰り際の会話がどうしても引っかかっていた。
嫉妬というのもあるだろうが。
「しているに決まっているだろう。そもそも特定の女性と深い仲になったことはない」
「まぁそうだね。京君はそういう男だよね。それが今じゃ…」
「な、何でしょうか」
「いやいや、随分と幸せそうで」
そう言って背を向け片手をあげて去っていく翔にひらひらと手を振り返した。
だが、すぐに京にその手を掴まれる。
「え、っと、」
「翔に…手を振る、それだけなのに」
「あ、…はい」
京の言動に首を傾げる。不機嫌そうなオーラが出ているのはわかっている。
「先ほどの翔様の発言ですが、嘘をついておりました。ごめんなさい。京様に関わる人物について翔様にお聞きしたくて…勝手に会いました。先ほどの翔様は咄嗟に嘘をついてくれたのですが…」
「あぁ、何となくわかっていた。今は何故その行動に出たのか理由がわかるから二人で会っていたことを想像すると苛つくが我慢する」
その代わり、と言って手を握られたまま顔が近づく。
ほんの少し顔の筋肉が緊張して、でも唇に柔らかい感触が広がると全身が脱力したようになる。
触れるだけのキスのはずだったが、京が顔を傾け片手をつばきの後頭部にやる。
「…っふ…ぅ、」
深いキスが繰り返され、甘い吐息が漏れ出る。
すると…―。
「ちょっと、今は通っちゃダメ!」
「あああ、京様とつばきさんがああ!」
コソコソと話し声が聞こえるが(女中たちだろう)本人たちが思っている以上に声はこちらへ届いている。
慌てて離れるつばきだったが、
「京様!こういうところでは…」
と、頬を膨らませ怒った顔を見せる。そんなつばきを見て京は「分かっている。今日くらい許せ」と言って頭を撫でた。