「だから…本当に思うのです。こんな能力、本当は必要ないのです。いつの未来なのかも不明です。この目のせいで呪われた瞳を持っていると言われ…別に人の未来など知ったところでどうしようもないのに。でも、京様の未来を見てから考えが変わりました。私の能力で京様を救うことが出来るかもしれないのです。まぁ結局は私のせいで京様が危険に晒されてしまうのですが…」
皮肉なことだ、と思い自嘲気味に笑うと京がそんなことはないとはっきりと言った。
「その力のお陰で未来が変わるかもしれないんだ」
「はい…」
「それに…お前を初めて見たとき緋色に光る瞳を見て目が離せなかった。あの時死のうとして橋から身を投げようとしていたのに、あの目にはどうしてか希望が見えた気がしたんだ」

京はどこか遠くを見ながらそう言った。


♢♢♢
「ねぇ聞いた?今日は環様がお見えになるらしいわ」
「本当?珍しいのね!滅多に来ないじゃない。実の弟だって言うのに」
「そうでしょう?仲があまりよろしくないようよ」
女中たちがコソコソと話している内容に聞き耳を立てるわけではないが環という名前に敏感に反応してしまう。
廊下を拭きながら環について考えていた。

(彼はきっと私のことを疎ましく思っているはず…)

だが、華族である彼がそこまでするとも思えない。

「つばきさん、こっちを手伝ってくれる?」
「わかりました」

みこに呼ばれつばきは床掃除する手を止めた。
それから一時間程度経った頃だろうか、ごめんくださいと玄関先で声がした。
直ぐにそれが環の声だということは分かったが、つばきは関わるなと京から言われているからお茶出しもする予定は無かった。
雪が対応しているようだ。客間へ続く足音を聞きながらつばきは屋敷内の掃除をしていた。

京と何を話すのだろうかと思いながら、できれば環に接触することなく彼のことを緋色の目で見たいと思っていた。
見たとしても意味はないのはわかっているが、徐々に近づいているであろう“その時”を考えるとじっとしていられない。

つばきのせいで京が刺されるとなれば尚更だ。
厨房に行き、一息ついていると背後に気配を感じた。
ちょうどみこが戻ってきたのかと思った。だが、そこにいたのはみこではなかった。

「あ…っ、」
「やぁ、久しぶり」
「た、環様…」
「名前覚えていてくれたんだね、良かった。兄が急に結婚するっていうからどんな相手かと楽しみにしてたんだよ、あの夜はね」