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それからまた数週間が経過した。
毎日のように京の動きを観察して、緋色の目で彼を見ようとするがその未来を見ることは出来なかった。
最低二度は同じ人をこの目で見ることが出来るはず、だ。
いつものように京の寝室で目を覚ますと上半身を起こす。
昨夜も京に抱かれたことから、少しばかり寝不足だ。つばきの隣で眠る京に手を伸ばした。
サラサラの髪に触れると自然に笑みが零れる。
つばきが京よりも先に目を覚ますのは珍しい。全くないわけではないのだが、基本京はつばきよりも先に目を覚まして寝顔を見ている。
寝顔を見られていい気分ではないのだが京はそれが見たいのだという。
だから今日は先に京の寝顔を見ることが出来て嬉しい。

と。

つばきは無意識に緋色の目で彼を見ていた。毎日のように京に気が付かれないように緋色の目で京を見るのが癖になってきているのかもしれない。
今日もダメだろうか、そう思った時…―。

脳内に映像が入ってきた。

「あっ…―」

この間は悍ましい光景に思わず目を背け途中で見るのをやめてしまった。そのせいで一瞬しか彼の未来を見ることが出来なかった。
つばきは唇を噛み締め、京を見つめた。

「ひゃ…っ…」

その光景はあまりにも残酷だった。
「どういう…っ…こと?どうしてっ…」
あの時と全く同じ状況に陥っていた。錯乱状態になるつばきの声で京が飛び起きる。

そして自分の頭に手をやり、必死に状況を呑み込もうとした。
(落ち着くのよ、落ち着かないと…―)

「つばき、どうしたっ…!何があった?!」
「京様っ…う、…ぅ、…」

つばきはボロボロと大粒の涙を零しながらごめんなさいと何度も謝罪をした。
京はつばきを落ち着かせるため引き寄せ、抱きしめた。

「大丈夫だ、落ち着け。何があった」

子供のように泣きじゃくるつばきはようやく理解したのだった。
あの血まみれになっていた京の未来は本当で、彼のその横には血に染まった包丁が落ちていた。
場所はつばきの部屋だとわかる。女中たちの声が響き渡っていた。医者を、医者を、という声と同時に“逃げた”という声も飛び交っている。

そして、京は誰かを庇うようにして屈みこんでいた。
京の胸の中にいたのは、つばきだったのだ。
つばきは京の腕の中に包まれながら、「ごめんなさい」「どうして庇ったのですか」と叫んでいた。

「そんな…―っ、どうしてっ…!」
「つばき、しっかりしろ。大丈夫だ。俺はここにいる」
「京様っ…ごめんな、さい…」
「どうしたんだ。何があったんだ」
「私の目は…っ…呪われてなどおりません。違う能力があるのです。それはっ…―その人の未来を見ることが出来るのです」