「それは…詳細は話すことが出来ません。勝手なことを言っているのは承知です。申し訳ございません」
「うん、全然いいよ。ペラペラしゃべるわけにはいかないよね。つばきちゃんの緋色に光る瞳は呪われているっていうのは嘘だと仮定して。でも君の瞳には別の能力がある。それを周囲には隠している。いや…隠さなければならない。そしてその力と京君に何か関係があって僕に会いに来た」
「……」

ついつばきは無言になっていた。無言ということは肯定しているようなものなのに。
きっと翔は元々勘が鋭いのだろう。飄飄としているしニコニコと周囲を和ませる雰囲気を持っているが心の内が読めないところがたまに怖いと思うことがある。

「あくまでも僕の仮説だから気にしないで。京君の交友関係はそこまで深く知っているわけじゃないよ。女性関係はそこそこ派手だったからね」
「女性関係…」

思わずそう口にして顔をくしゃりと歪めていた。それをみた翔はクスクスと笑った。
京の交友関係について訊きに来たのに女性関係というワード一つで嫉妬するなど恥ずかしいことなのに。

「ごめんなさい。続けてください」
「ふふ、いいの?あまりにあからさまに嫌な顔するからさ。そんなに京君のこと好きなんだなって。可愛いね」
「あまり揶揄わないでください…」
熱のこもった頬に触れてそう言った。
「羨ましいなぁって」
「もう…」

ちょうど紅茶が運ばれてくる。ティーカップとティーポット、それぞれが私たちの目の前に置かれる。
既に紅茶のいい香りが鼻孔を刺激する。ティーカップに注がれる紅茶を上品に飲む翔はそれをそっと元の位置へ戻すと続きを話す。

「京君は華族だから僕と同じで結構社交界とかに呼ばれるしそういう意味では顔が広いんだ。だからすべての人を知ることは不可能だと思うよ。具体的にどういう人物が知りたいの?」
「それは…例えば、凄く親しい人とか逆に京様を良く思っていない人物とか…」
「親しいと言えば僕もそうだよ。幼馴染だし家同士が近いから。後はそうだな…僕が知る限りは華族かなぁ」
そういって数人の名前を言う彼につばきは急いでメモを取った。

「仕事関係はちょっとわからない。京君は貿易会社を営んでいるけれどそれだって一条家は全く絡んでいないからね。むしろ反対している立場だよ。あぁ、そっか。京君を良く思っていない人物と言えば、一番は一条環君かもね」
「環…あ、」
「会ったでしょ?パーティーに出席したなら」

はい、と頷いた。

脳裏に浮かぶのはあの冷たい視線を向ける京の弟だ。
あまり仲は良くないように思えたが、つばきに向けるあの目は完全に敵対心を宿していた。