今日は翔と会う約束をしていた。
女中たちにも休日があるように、つばきにも完全な休日があった。
京はつばきに“女中ではないのだから好きな時に出かけたり休んだりしていい”というがそうはいかない。
他の女中たちと同じように休みをもらう方がいい。つばきの意思を尊重して今は女中たちと同じようにしている。
そして今日は翔と会う約束をしていた。

「あれ?どこか行くの?」

二階からちょうど準備を終えて階段を下りていると雪が足を止めそう訊いた。

「うん、ちょっと気分転換に出かけてくる」
「そうなんだ~せっかくだから買い物とかしてきたら?つばきちゃん、物欲とかないの?」
つばきはふっと笑って口元に手を添えた。
「物欲はないかな。一応京様からお給料をもらっているのだけど、本当は女中でもないし…もらうのもなって」
「だってつばきちゃんだって屋敷内の仕事手伝っているんだから!当たり前だよ~」

雪の陽気な声につばきの頬も緩む。

「雪ちゃんは長期のお休みいつ貰っているの?」
「それならちょうどつばきちゃんがここに来る前に貰ってたよ!」
「そうなんだ。ご実家に戻ったりするの?」

雪は一瞬顔色を曇らせた。しかしそれは一瞬で、すぐにいつもの雪に戻った。
口元に描かれた弧はそのままだ。

「うーん、今回は帰ってないよ。でもそのうち帰るかもしれない」
「そっか。じゃあ行ってきます」
「うん、楽しんでね!」
雪に見送られ、つばきは屋敷を出た。