今日、自分たちの前に現れるのはおそらく清菜の父親と母親だろう。清菜も同席するとは思っているがどうかわからない。
彼女には借金の件についても詳細を訊かねばいけない。
京にもいずれは話さねばならないことだとは思っているが、京のことだ、きっと自分がすべて支払うというのだろう。それは関係のない京へ迷惑をかけるのは違うと思っている。
飲み物が運ばれてきてから数分、ドアが開いた。
京もつばきも立ち上がった。
そこには洋装姿の清菜の母と父、それから着物姿の清菜が軽く会釈をしながら室内に入ってくる。
「初めまして。今日はお時間いただきありがとうございます。一条京と申します」
「いえ、一条家の長男である一条京様からわざわざ足を運んでくださりありがとうございます。それに、つばきさんも久しぶりね」
軽くウェーブを掛けたセミロングの髪をハーフアップした清菜の母親がそう言ってつばきに目をやる。
にこやかに見えるが、その目は笑ってはいない。
「今日ここへ来たのは正式につばきを一条家の人間に、言い換えれば私の妻として迎えるため、西園寺家の皆様へ挨拶に参りました」
清菜が下唇を噛むのが分かった。淡々とそう言った京に清菜の母も父も驚いているようだ。
夜伽として一条家に雇われていると聞いていたのだろう。事実そうではあったが、今は違う。
「まぁ、本来であれば彼女は既に“西園寺家”の人間ではないに等しいのでわざわざ挨拶に…というのも違うかと思いましたが」
「そ、それは…そんなことはございません!つばきさんは立派な西園寺家の人間ですわ。ねぇ。あなた」
「あぁ、そうだな。つばきさんは両親を亡くして不運な環境にいたがここで清菜と一緒に生活をしていたから」
清菜の父がそう言ったのを京は嘲笑した。場が凍り付くのが分かった。
「一緒に生活?私が彼女を初めて見たとき、ひどくやせ細り、体にはあざが多数あった。それだけではない、彼女を既に村へ隔離し、いないものとして扱っていたと認識しているが」
「京様、私はもう大丈夫です」
つばきが制すると京はつばきの手をそっと握る。
「今日は西園寺家との絶縁のためにここに来た。直に一条家を継ぎ、当主となることも決定している。その際に彼女は俺の妻にする」
「妻…それは、ご両親は何と?爵位を継ぐというのは結婚相手も影響するでしょう?」
「それは問題ない。つばきは俺の妻になる。それだけは変わらない。それよりも、屋敷内で少し前に騒動があった。見知らぬ男が事実ではないことを書いた紙をばら撒いた。ようやくその男を見つけた。彼が言うには頼まれた、と。そしてそれを頼んだ相手は西園寺清菜だということも吐いた。最初はなかなか渋って言おうとはしなかったが、詰めたらすべて話した。もちろん、そのほかにも証拠はある。西園寺清菜が実行した男へ何度か接触している証拠もある」
「そんなことっ…、清菜、していないわよね?」
「していないわ!冗談はやめて頂戴」
「冗談なんかじゃない」
京はそう言って鞄の中から数センチほどの厚みのある紙をテーブルに置く。清菜がみるみるうちに顔を赤くさせる。
おそらくその男も金を貰っていたのだろうが、京が接触となると西園寺家と一条家…どうみても格が違う。
見なくとも分かったのだろう、それらを手にしない清菜の両親は俯いた。
これは憶測でしかないがつばきの緋色の呪われた目については、賢い人たちだから“その目で見られたものは死ぬ”ということが嘘だというのは気づいていたのかもしれない。
だが、つばきやその母親を良く思っていなかった彼らがそれらを口実に酷い虐めを繰り返していたのではないか。
「それから…色々と調べていたがつばきの母にも父親にも借金はないようだ」
え、と声を漏らして京を見上げる。
彼女には借金の件についても詳細を訊かねばいけない。
京にもいずれは話さねばならないことだとは思っているが、京のことだ、きっと自分がすべて支払うというのだろう。それは関係のない京へ迷惑をかけるのは違うと思っている。
飲み物が運ばれてきてから数分、ドアが開いた。
京もつばきも立ち上がった。
そこには洋装姿の清菜の母と父、それから着物姿の清菜が軽く会釈をしながら室内に入ってくる。
「初めまして。今日はお時間いただきありがとうございます。一条京と申します」
「いえ、一条家の長男である一条京様からわざわざ足を運んでくださりありがとうございます。それに、つばきさんも久しぶりね」
軽くウェーブを掛けたセミロングの髪をハーフアップした清菜の母親がそう言ってつばきに目をやる。
にこやかに見えるが、その目は笑ってはいない。
「今日ここへ来たのは正式につばきを一条家の人間に、言い換えれば私の妻として迎えるため、西園寺家の皆様へ挨拶に参りました」
清菜が下唇を噛むのが分かった。淡々とそう言った京に清菜の母も父も驚いているようだ。
夜伽として一条家に雇われていると聞いていたのだろう。事実そうではあったが、今は違う。
「まぁ、本来であれば彼女は既に“西園寺家”の人間ではないに等しいのでわざわざ挨拶に…というのも違うかと思いましたが」
「そ、それは…そんなことはございません!つばきさんは立派な西園寺家の人間ですわ。ねぇ。あなた」
「あぁ、そうだな。つばきさんは両親を亡くして不運な環境にいたがここで清菜と一緒に生活をしていたから」
清菜の父がそう言ったのを京は嘲笑した。場が凍り付くのが分かった。
「一緒に生活?私が彼女を初めて見たとき、ひどくやせ細り、体にはあざが多数あった。それだけではない、彼女を既に村へ隔離し、いないものとして扱っていたと認識しているが」
「京様、私はもう大丈夫です」
つばきが制すると京はつばきの手をそっと握る。
「今日は西園寺家との絶縁のためにここに来た。直に一条家を継ぎ、当主となることも決定している。その際に彼女は俺の妻にする」
「妻…それは、ご両親は何と?爵位を継ぐというのは結婚相手も影響するでしょう?」
「それは問題ない。つばきは俺の妻になる。それだけは変わらない。それよりも、屋敷内で少し前に騒動があった。見知らぬ男が事実ではないことを書いた紙をばら撒いた。ようやくその男を見つけた。彼が言うには頼まれた、と。そしてそれを頼んだ相手は西園寺清菜だということも吐いた。最初はなかなか渋って言おうとはしなかったが、詰めたらすべて話した。もちろん、そのほかにも証拠はある。西園寺清菜が実行した男へ何度か接触している証拠もある」
「そんなことっ…、清菜、していないわよね?」
「していないわ!冗談はやめて頂戴」
「冗談なんかじゃない」
京はそう言って鞄の中から数センチほどの厚みのある紙をテーブルに置く。清菜がみるみるうちに顔を赤くさせる。
おそらくその男も金を貰っていたのだろうが、京が接触となると西園寺家と一条家…どうみても格が違う。
見なくとも分かったのだろう、それらを手にしない清菜の両親は俯いた。
これは憶測でしかないがつばきの緋色の呪われた目については、賢い人たちだから“その目で見られたものは死ぬ”ということが嘘だというのは気づいていたのかもしれない。
だが、つばきやその母親を良く思っていなかった彼らがそれらを口実に酷い虐めを繰り返していたのではないか。
「それから…色々と調べていたがつばきの母にも父親にも借金はないようだ」
え、と声を漏らして京を見上げる。