清菜は笑顔を張り付けたままつばきにいった。

「せっかく久しぶりにお会いできたのですから、お茶でもいかが?」

本来ならば逃げ出し屋敷へ戻るのが正しい選択だろう。彼女に関わりたくなどない。
しかし、京の未来に関係する人物の一人でもあるのだ。
京に恨みを持っている可能性もあるだろう。
きっと京は西園寺家に行って清菜があの紙をばら撒いた証拠を突きつけるのだろう。
心配しなくていいと何度も言ってくれていたのはおそらくそういうことだろう。
清菜としては京にいい感情は持っていないはずだ。
つばきは深く息を吸った。それをゆっくりと吐き出すと彼女に言った。

「分かりました」
「では近くのお茶屋さんにでも」

清菜の後ろを歩きながら彼女が自分に何の用でここまで来たのか考えるが悪い想像しか浮かんでこないので思考を巡らせるのをやめた。
近くのお茶屋につばきと清菜が入ると、感じのいい女性が席へ案内してくれる。
奥の席に通され、木製の椅子に腰かける。
お茶を二つ注文すると、さっそく清菜が口を開いた。

「今日はつばきさんに会えて本当に嬉しいわ。まさか生きていたとは思わなかったから」
「ええ、京様のお陰で…何とか生き延びることが出来ました」
「そう。近々うちの屋敷に一条家長男である一条京様がいらっしゃるとか」
「はい、西園寺家にご挨拶に伺う予定でした」

はりつくような人形のような笑みがすっと顔から消えた。
彼女のその目が嫌いだった。蔑むような表情に、目の奥の黒さが苦手だった。

「あの日、あなたが逃げ出した後あなたを探したのだけれど皆が口を噤んだままだったの。逃がしたのかとも思ったけれど…どうやら誰かが口止めしていたようね。それが一条家の長男だった」

静かにそう語りだす清菜につばきは黙って彼女を見据える。

「まぁつばきさんが幸せならばそれでいいのだけれど…でもねぇ、実はあなたに伝えなければならないことがあって。最近になってあなたのお母様の借金が発覚したの。色々なところに借金をしていたようなのだけど…」
「それは…本当なのでしょうか」
「ええ、本当よ。借用書が見つからなかったから分からなかったのだけど、貸していた方が先日西園寺家に来て借用書を持ってきたの。で、今はつばきさんのお母様はいらっしゃらないでしょう?だからその借金はあなたが支払うべきでしょう?」
つばきは絶句した。