「翔とは何を話していた?」

まさか今度京に内緒で翔と会う約束をしていることを既に知っているのだろうかと不安に駆られた。もしもそれを知られてしまうと何故内密にしてまで会おうとするのかそれを問われるだろう。
それだけは避けたかった。京の周囲の人間関係を調査したいのに京本人の前でそれを聞くわけにはいかない。

「お久しぶりです、という軽い挨拶を…」
「それだけ、か」
「…はい」

疑い深い目を向けられると疚しさも相俟って目を逸らしたくなるが、逸らせば嘘をついていると相手に伝わってしまうと思い彼を見つめる。
すると、どういうわけか京がつばきに体を近づける。

「あ…え、っと…京様、あの、」

身体を密着させるのではと思うほどに京がつばきに近づく。
慌てるつばきの言動など関係ないとでもいうように、京は無言でつばきの首筋に顔を埋めた。

「…ま、待って下さい、京様、っ…誰かが来てしまいます…っ、」

首筋にチクリ、痛みが走る。
それなりにコシのある京の髪の毛が首や顎下に当たる。その刺激と京の舌がつばきの首筋を愛撫していくのその過程に思わずなまめかしい声が出る。
息が上がっていくと京のそれはエスカレートしていく。
眉間に皺を寄せ、声を我慢するが徐々に体がフワフワしていくのがわかる。

「誰かが来なければ続けていいのか」
「…そ、それは…、ぁ、っ…」

甘く蕩けるその行為につばきの膝ががくがくと震える。京に触れられると全身が性感帯になる。
と、奥の方からこちらに誰かが近づく足音がした。
「京様っ…、」

ようやく京が体を離すがつばきは既に全身を熱くさせ、一人で立っているのもやっとなほどだ。厨房に来たのは女中の一人だった。
彼女はキョトンとしてつばきと京を交互に見る。

「京様。それに…つばきさんまで」
「ごめんなさい。ちょっとふらついていて」
「大丈夫ですか。私が代わりましょうか」
「いえ、大丈夫です。少し休んでから取り掛かります。ありがとうございます」

そうですか、と不安そうな顔をしたまま、厨房からテーブルに置かれた前掛けを手にするとすぐに去っていく。
彼女がいなくなってからむっと頬を膨らませて京を見上げる。

「仕事中は困ります!…し、仕事どころではなくなってしまいますし…」
京はくすりと笑ってすまないといった。
そして愛おしそうにつばきの頬を撫でる。目を眇めながらまた全身に熱を溜める。
(少しでも触られると…こんなにも全身が熱くなる。きっと京様にもバレバレだわ)