屋敷へ来て直ぐの頃とは違い、女中の仕事をほぼ覚えたつばきは何でも手伝えるようになっていた。
料理も任されることが多くなっている。
京は食事をつばきが作ったと知ると普段はしないのにおかわりをする。
食事を作って一緒に食すことも多いからか、そんなときはまるで夫婦のようだと思い照れを隠すのに必死だ。
(それにしても…京様、どうして今日は機嫌が悪いのかしら…?私のせいって言っていたけど、翔様とは特別親しいわけではないし…)
京のことを考えながら夕食の下準備をしていた。
絹さやのヘタを取っていると背後に気配を感じ振り返る。
そこには浴衣姿の京がいた。既に風呂に入ったようだ。つばきは手を止め前掛けで手を拭った。
「京様、」
確かに京は機嫌が悪いようだ。顔を見ればわかる。纏っている雰囲気も同様に棘があった。
みこや雪が言っていた通りだ。あまり京は感情を顔に出したりはしない。
そういうタイプだと思っていたが…最近はそれなりに感情を出しているように思う。それはそれで人間らしくて好きではある。
京がつばきに近づき正面に立つとつばきを見下ろす。
「夕食の準備をしております。今日は私が夕食を担当いたしますので」
「それは嬉しい」
彼はそういうもののやはりどこか棘のある視線を向けてくる。
何かしただろうか、翔とのことだろうか。でも自分たちは数回会ったことのある程度、所謂顔見知り程度の仲だろう。
京がつばきの手首を掴む。
「お前は前に俺のことが知りたいといったな」
「…えっと、はい。いいました。それは…―」
それは緋色の目で彼を見てどうにかして今後来るであろう未来を変えるため、京の周囲の人物を知りたいと思ったから放った言葉だった。
何故かつばきの手首を掴む京はそのまま京の右側に置かれてある長テーブルの方へつばきを移動させた。思わず体勢を崩しそうになる。
「京様っ…、あの、」
「俺は独占欲が強いようだ」
「…は、はい、」
「そういう感情が自分にあることをお前に出会って初めて知った。今、苛立っているのはそれのせいだろうな」
つばきは内心では首を捻るものの、京の言う意味を理解できず困惑した表情を浮かべる。
いつ誰が来るかわからない厨房で周囲を気にしながらも京がつばきの手首を掴み、そのまま体を近づけてくる。つばきに逃げ場はない。腰に当たるテーブルの感覚に観念したように京を見上げ彼の名を呼ぶ。