「京様って…その、言いにくいけど恨まれていることってあると思う?」
「え、何突然。どうしたの?」
「ちょっと気になったの」

もしも立場が逆であれば何故今そのような話題を向けるのかと思うだろう。
何となく気になった、というふわっとした返答で納得してくれるとは思わないが雪はあまり気にしていないようで顎に人差し指を添え、目線を上にして考え込む。

「京様ってほら、一条家ともあまり仲良くないみたいだし…それこそ、花梨さんって人!結構屋敷に来てたんだけど…あんまり感じのいい人じゃないから好きじゃないけど彼女だって今は京様にあまりいい感情抱いてないんじゃない?だって自分が結婚すると思ってたのにつばきちゃんと結婚するっていうんだよ?」
「た、確かに…」
「まぁ私は嬉しいよ?だって京様にいつか素敵な人が出来てほしいなって思ってたから。花梨さんって見た目も美人だし家柄も申し分ないけど…京様あんまり興味があるように見えなかった」

そうなの?と訊くと雪はそうだよ!と自信をもっていった。
もちろんこれは雪の主観だ。事実がどうかは本人しか知らない。

京がどうして血まみれだったのかまだ詳細がわからないが、それなりの出血量だった。
おそらく命に係わるほどの出血量だろう。もしかするとそのまま彼が死んでしまうかもしれないのだ。絶対に阻止しなければならない未来だ。

だけど、あの量の血が出るというのが事故というのはなかなか考えにくい。
つばきの中では誰かにやられたのではないか、という説の方が現実的だと思っていた。

とにかく毎日京を緋色の目で見て、彼の未来を早く知らなければならない。時間がないのだ。

京はそもそも華族だ。しかも長男だ。それを良く思っていない人もそれなりにいるだろう。だからこそ、難しいのだ。京のいつか来るであろう未来を変えるというのは。

「何か悩みでもあるの?」
「ううん、何もないよ。でも…京様のことをもっと知りたくて」
「もう~のろけないでよ!じゃあ私買い出しあるから」

雪が顔を赤くしてパタパタと足音を立てながら玄関先へ向かっていく。

つばきも自分の仕事に戻る。