迷宮画家フリークの作った迷宮の地図は、想像以上の反響を見せた。

ルードの読み通り安価な迷宮の地図は初心者冒険者から中級冒険者に瞬く間に広まっていき、その利便性から口コミであっという間に冒険者の必須アイテムとまで言われるほどの地位を確立する。

当然、それだけ人気となればダスト一人では地図の量産も到底間に合わない。
そのためか、アキナさんは冒険者ギルドの一部を改築し従業員100人程の印刷所を設立。

印刷のノウハウがあるダストはそこの所長に任命された。

初めは所長という言葉に喜んでいたダストではあったが、過去の仕返しとばかりの大量発注の日々に、最近では毎晩プレス機に押しつぶされる夢にうなされている。

可哀想だが、自業自得である。

冒険者保険やローン、冒険者預金も初心者冒険者を中心に大反響。
国中から集めたお金はもはやギルドや倉庫に収まる程度の金額では無くなってしまい。
契約の数もとてもじゃないが一人や二人で管理できるものでもなくなったため、ルードは銀行を作って経営を雇った人間に任せる事にした。

名前はフリークルーディバイスアキナ信託銀行。

なんでも名前を繋げれば良いって物ではないと思うのだが、銀行とはそういう物だとアキナさんに一蹴された。


話を戻そう。

色々と商売をルードは展開してきたが、やはり一番の利益を生み出したのは王族との取引。

迷宮の絵だ。

僕が迷宮の絵は必ず一枚ずつしか描かないということもあってか、迷宮の絵は相変わらず貴族や王族の人たちの間で高値での取引が続いており、ある時には貴族の人たちが絵を描いて欲しいとギルドハウスに雪崩れ込んでくる時まであった。



まぁとにかくこうして上は王族、下は初心者冒険者まで……気がついたら僕の名前を知らない人間はこの国でほとんどいなくなった。



そして……。

「相棒‼︎ とうとうあの絵を出す時がきたぜ‼︎」

45枚目の版画を掘り終わった僕に、ルードは高そうな額縁を手にそう言った。

「……あの絵?」

「ガルガンチュアの迷宮のことだよ相棒‼︎ 俺もお前もすっかりこの国じゃ有名人さ。ちらほら、魔王の魂が消滅した迷宮が出てきたって話だし。 このビジネス一番の大勝負を始めるとしようぜ相棒‼︎ ほら、このコート着て‼︎」

目を白黒させている僕にルードは問答無用で高そうなコートを着せ、帽子に手袋までしっかり着させてくれると、今度はこなれた手つきでこれまた高そうな額縁の中にガルガンチュアの迷宮の絵を収めていく。

「ちょっと長旅になるから、しっかりコートの前は閉めておけよ相棒。馬車の中とはいえ冷えるからな。なんでも、明日の朝は雪が降るかもって占星術師のおっちゃんも言ってたぜ?」

「馬車って……今からどこかに出かけるの?」

言われた通りコートのボタンを閉めながら僕はルードに問いかけると、
ルードはきょとんとしたような表情をして。

「どこって、前に話しただろ? オークション会場だよ‼︎」

そんなことを言ったのだった。