筆の調子も版画の調子も良く、一週間程度かかると思われた地図の制作は
五日で終了した。
「……時間が余ってしまった」
ルードはまだ帰ってくる様子はなく、僕はやることもないので画材道具をしまって外出をすることにした。
「だ、旦那ぁ。外出ですかい?」
仕事着からルードにもらった外行用の服に着替えていると。
その様子を察知したのか版画刷りに勤しんでいたダストがコートを持ってきてくれた。
横領によりギルドマスターを追放されたダストは、ルードに拾われてこの前から家の版画刷りの仕事に加えて僕の身の回りの世話を担当してくれている。
半年前、冒険者ギルドから僕を蹴り出した人物とは到底思えない豹変ぶりで、ニコニコと愛想笑いを振りまく姿はいまだに慣れない。
「あぁうん。ちょっと散歩にね」
「外が冷える季節になってきましたからねぇ、暖をとらねえと。それに外は危険でいっぱいです、護衛として私もご一緒しましょうか?」
「そう言って版画刷りが面倒になっただけだろダスト?」
「そそそ、そんな滅相もない。いや、まぁ確かにちょいとばかし退屈だなとか思わなかったりしなくもなかったですがね?」
「まったく……今日の分全部終わったら、酒蔵のワイン一本開けていいから頑張って」
「ほ、本当ですかい旦那‼︎? あれって相当高い奴ですぜ?ルードの旦那が怒るんじゃ?」
「ルードには僕が飲んだって言っとくからいいよ」
「うっほーー‼︎ 旦那に雇われてよかったぁ‼︎ じゃあ俺は仕事に戻りやすんで、旦那はどうぞお気をつけてそれじゃあ‼︎」
「……現金だなぁもう」
そそくさと仕事場に走っていくダストに僕は苦笑を漏らしながら、コートを羽織って外に出る。
……思えばこうして街を散歩するのも久しぶりだ。
薄い氷のはった道を足元に注意しながら歩く。
街は少し人どおりが多くなったか、冒険者たちが僕とすれ違っていく。
『あれ? ギルドハウスから出てきたあの人、ギルド経営者のフリークさんじゃない?』
『迷宮画家の? やだ、挨拶すればよかった‼︎』
『あの若さで素敵ねぇ。身なりもいいし気品があるっていうか?』
『あーん、あんな人と結婚できたら、むさいおっさんとパーティー組んで迷宮なんて潜らなくても済むのに〜‼︎』
『ちょっと声かけてみよっか? 玉の輿狙えるかもよ?』
『む、無理だってー‼︎』
楽しそうに僕の噂をする冒険者の会話に、僕は気恥ずかしくなってそそくさと立ち去る。
迷宮画家とか玉の輿とかいったい何の話だろう?
そんな疑問を抱きながら街をぶらぶらと歩く。
こうやって街を気ままに歩くのは本当に久しぶりだ。
「最近ずっと絵ばっかり描いてたからなぁ。画材道具の仕入れとかも、なんだかんだルードがやってくれてたし」
パーティーを追放されて、絵を描き始めてから半年。
そのうち絵を描く目的以外で外出をしたのは数えるほどしかなく。
目的もなく街を散歩するなど、初めてだったことに気がつく。
「たった半年だけど、この街も随分変わったなぁ。なんでだろう?」
もともと王都の近くということである程度活気のある街ではあった。
ただ、周りにも迷宮が密集している地域と言うことと、ラプラスの迷宮がこの地域では群を抜いて難易度の高い迷宮であったことも相まり、街を歩く人々も鎧を身に纏った冒険者……それも厳つい鎧や武器を背負った人がほとんどだったような気がしたのだが。
「なんか今日私服……というか高そうな服着てる人が多いな」
街を歩く人々のほとんどが軽装……今の僕のように私服にコートを羽織ったような服装の人間が多く、貴族の人が着るような煌びやかな衣装を身に纏った人も多い。
橋の向こうに見える大通りも、去年までは一日に一度通るぐらいが席のやまだった馬車がひっきりなしに行ったり来たりを繰り返しているし。
身分の高いお金持ちがこの街に頻繁に出入りをしているようだと言うことが見てとれた。
「こんな街に、貴族が何の用事だろう?」
不思議に思った僕は、休憩がてら街のベンチに腰を下ろして人々の流れをぼうっと眺めることにした。
昼食用にと持ってきた生ハムとチーズのサンドイッチを頬張りながら、人々の流れを観察すること数分。
「……あれ?」
僕は一つのことに気がつく。
それは、身なりのいい私服の人や貴族のような人が、みんな大通りから少し外れた商業区通りに向かっていると言うことだ。
「あの先、よっぽど面白いものがあるんだろうな……」
興味を持った僕は少しだけ考えた後、サンドイッチをお腹に押し込んでみんなの後をついていくことにした。
五日で終了した。
「……時間が余ってしまった」
ルードはまだ帰ってくる様子はなく、僕はやることもないので画材道具をしまって外出をすることにした。
「だ、旦那ぁ。外出ですかい?」
仕事着からルードにもらった外行用の服に着替えていると。
その様子を察知したのか版画刷りに勤しんでいたダストがコートを持ってきてくれた。
横領によりギルドマスターを追放されたダストは、ルードに拾われてこの前から家の版画刷りの仕事に加えて僕の身の回りの世話を担当してくれている。
半年前、冒険者ギルドから僕を蹴り出した人物とは到底思えない豹変ぶりで、ニコニコと愛想笑いを振りまく姿はいまだに慣れない。
「あぁうん。ちょっと散歩にね」
「外が冷える季節になってきましたからねぇ、暖をとらねえと。それに外は危険でいっぱいです、護衛として私もご一緒しましょうか?」
「そう言って版画刷りが面倒になっただけだろダスト?」
「そそそ、そんな滅相もない。いや、まぁ確かにちょいとばかし退屈だなとか思わなかったりしなくもなかったですがね?」
「まったく……今日の分全部終わったら、酒蔵のワイン一本開けていいから頑張って」
「ほ、本当ですかい旦那‼︎? あれって相当高い奴ですぜ?ルードの旦那が怒るんじゃ?」
「ルードには僕が飲んだって言っとくからいいよ」
「うっほーー‼︎ 旦那に雇われてよかったぁ‼︎ じゃあ俺は仕事に戻りやすんで、旦那はどうぞお気をつけてそれじゃあ‼︎」
「……現金だなぁもう」
そそくさと仕事場に走っていくダストに僕は苦笑を漏らしながら、コートを羽織って外に出る。
……思えばこうして街を散歩するのも久しぶりだ。
薄い氷のはった道を足元に注意しながら歩く。
街は少し人どおりが多くなったか、冒険者たちが僕とすれ違っていく。
『あれ? ギルドハウスから出てきたあの人、ギルド経営者のフリークさんじゃない?』
『迷宮画家の? やだ、挨拶すればよかった‼︎』
『あの若さで素敵ねぇ。身なりもいいし気品があるっていうか?』
『あーん、あんな人と結婚できたら、むさいおっさんとパーティー組んで迷宮なんて潜らなくても済むのに〜‼︎』
『ちょっと声かけてみよっか? 玉の輿狙えるかもよ?』
『む、無理だってー‼︎』
楽しそうに僕の噂をする冒険者の会話に、僕は気恥ずかしくなってそそくさと立ち去る。
迷宮画家とか玉の輿とかいったい何の話だろう?
そんな疑問を抱きながら街をぶらぶらと歩く。
こうやって街を気ままに歩くのは本当に久しぶりだ。
「最近ずっと絵ばっかり描いてたからなぁ。画材道具の仕入れとかも、なんだかんだルードがやってくれてたし」
パーティーを追放されて、絵を描き始めてから半年。
そのうち絵を描く目的以外で外出をしたのは数えるほどしかなく。
目的もなく街を散歩するなど、初めてだったことに気がつく。
「たった半年だけど、この街も随分変わったなぁ。なんでだろう?」
もともと王都の近くということである程度活気のある街ではあった。
ただ、周りにも迷宮が密集している地域と言うことと、ラプラスの迷宮がこの地域では群を抜いて難易度の高い迷宮であったことも相まり、街を歩く人々も鎧を身に纏った冒険者……それも厳つい鎧や武器を背負った人がほとんどだったような気がしたのだが。
「なんか今日私服……というか高そうな服着てる人が多いな」
街を歩く人々のほとんどが軽装……今の僕のように私服にコートを羽織ったような服装の人間が多く、貴族の人が着るような煌びやかな衣装を身に纏った人も多い。
橋の向こうに見える大通りも、去年までは一日に一度通るぐらいが席のやまだった馬車がひっきりなしに行ったり来たりを繰り返しているし。
身分の高いお金持ちがこの街に頻繁に出入りをしているようだと言うことが見てとれた。
「こんな街に、貴族が何の用事だろう?」
不思議に思った僕は、休憩がてら街のベンチに腰を下ろして人々の流れをぼうっと眺めることにした。
昼食用にと持ってきた生ハムとチーズのサンドイッチを頬張りながら、人々の流れを観察すること数分。
「……あれ?」
僕は一つのことに気がつく。
それは、身なりのいい私服の人や貴族のような人が、みんな大通りから少し外れた商業区通りに向かっていると言うことだ。
「あの先、よっぽど面白いものがあるんだろうな……」
興味を持った僕は少しだけ考えた後、サンドイッチをお腹に押し込んでみんなの後をついていくことにした。