「ああそう、この機会にあなたに文句を言いたかったのよね。確かにあなたはすごい。この若さで海外公演を大成功に修めた、ピアニスト桐谷静は立派よ。でもプライベートの桐谷静のことは私は知らない。週刊紙で報道されてることしか知らないわ。なあに、あの三神メイサとの熱愛報道」

「あれは……」

「違うって言いたいんでしょう?そうかもしれないわ。だって私の知ってる桐谷静は山名さんを愛していたもの。三神メイサに心変わりするなんてあり得ないと思う。だけどね、その報道を聞いたときの山名さんの気持ちがわかる?それに対してちゃんとフォローはしたの?してないなら、あなたは山名さんではなく、三神メイサを取ったのよ。まあ報道なんてあることないこと書くからね、誰も鵜呑みになんてしないでしょうけど、でも日本で待ってる山名さんにはつらいことだったでしょうね」

「そんな……」

静は絶句した。

春花のことを愛している。きちんと言葉にもしていたつもりだった。けれどそれは本当に春花に伝わっていたのだろうか。もっともっとできることがあったのではないだろうか。

春花のことを一番に考えていると思っていたのは独りよがりで、結局ピアノのことが一番だったのかもしれない。