何も手掛かりが掴めない静は、春花の勤め先の店を訪れていた。

「山名さんね、辞めたのよ」

「辞めた?」

素っ気なく答えられ静は思わず語気を強める。

自分の元に通う生徒たちを見捨てることができないと言っていた春花を知っているだけに、葉月の言葉はすんなりと信じられなかった。

「春花のところに通っていた生徒さんたちはどうなったんですか?」

「辞めてもしばらくはレッスンだけの契約で働いてくれてたのよ。でも時間をかけて生徒さんたちにも説明して別の先生に代わってもらって、今はもう来ていないわ」

「それで、春花は今どこにいるんですか?久世さんなら知っているんでしょう?」

静は前のめりになる。

春花の安否を確認するため葉月に電話をかけた時、「春花は元気だ」と告げられた。何かを隠しているようなかばっているような、そんな態度に違和感を覚えていたのだ。

葉月は困ったようにため息をついた。

もし静が春花を訪ねて店に来た場合、自分の居場所は知らせないでほしいと春花から頼まれていた。その場では了承したものの、葉月自身それが正しいのか分かり兼ねている。

春花と静、二人でいるときの雰囲気は羨ましいほどにとても幸せそうに見えていた。だからこの先もずっと二人の関係が上手くいってほしいと願っていたのだ。