『お電話かわりました、店長の久世です』

「桐谷静です。お世話になっております」

『どうかされました?』

「あの、春花と連絡が取れないのですが、春花はいますか?」

『今日はお休みなの。でも元気だから心配しなくても大丈夫よ』

「……あの、春花に連絡がほしいって伝えてもらえますか?」

『わかった。伝えておくわね』

「はい、すみません」

ひとまず春花が無事でいることだけは確認でき、静は胸を撫で下ろす。

ただ、音信不通になった理由は未だにわからない。そして葉月との会話にも違和感を覚えたが、彼女の変わらぬ明るい声にそれ以上の追求はできなかった。


どうにか最低限の公演を終え責任を果たした静は、その後に企画されているものはすべてキャンセルして日本に戻った。

久しぶりのマンションは自宅だというのにしんと静まり返りひんやりとしている。

「春花?」

声をかけながら一部屋ずつまわるものの、そこに春花の姿はなかった。春花だけではない。猫のトロもいないし、何より春花の荷物がひとつもなかった。

まるで最初からその存在はなかったかのように……。

「……どういうことだよ?」

なぜあの時すぐに帰国しなかったのか。
こんなことならすべてを投げ捨ててでも帰国すればよかった。

「春花、どこに行ったんだよ!」

静の叫びは誰に聞かれることもなく、そのまま冷たい空気の中に溶け込んで消えていった。