春花は無事一週間で退院でき、街も人も何事もなかったかのように元通りの平穏を取り戻していた。

だが春花だけは違う。隣には静がいて、店には葉月がいる。まわりの景色も何も変わらないのに、春花の心だけどこかに置き忘れてきてしまったように感じていた。

仕事復帰も、葉月からゆっくりでいいと言われている。そんな優しさが余計に心苦しい。

春花にはたくさんの生徒がいたのだ。今回の件で、店にも生徒たちにも迷惑をかけてしまった。物騒だからとレッスンを辞める人もいたと聞き、その責任の重さに胸が潰れそうになった。

「店長、私……」

差し出した封筒。
退職届と書かれた文字を見て、葉月は受け取りを拒否した。

「悪いけど認められないわ。もし山名さんが責任を感じて店に迷惑をかけたと思うなら、今まで以上に働いてちょうだい。簡単に辞めるなんて言わないで。今通ってる生徒さんたちを裏切ることになるのよ。みんなあなたを待ってるんだから」

「でも……」

「責任を感じて辞めるっていうのだけはやめて。もし山名さんに責任があったとしても、それで辞めさせるかどうかの判断は店長である私が決める」

「……はい」

「まあ、それとは別で、あなたの今後の人生を考えて辞める選択をするなら、その時はきちんと受け入れるわ」

葉月の言うとおり、今の春花の気持ちは迷惑をかけた責任を取ろうとしか考えていない。これからの自分のことなど考える余裕がないのだ。

それほどまでに今回の事件は春花に罪悪感を植えつけていた。