いつも通り静が春花を迎えに行ったある日のこと。
店の前で春花を迎え、すぐ目の前の駐車場へ向かおうと歩を進めた時だった。

「おい、春花。いいご身分だな」

ひどく冷たいドスの聞いた声が横から耳に突き刺さり、二人はそちらに視線を向ける。

「……高志」

そこには髪を乱暴に掻き乱した高志が、春花と静を睨み付けるように立っていた。

「なるほどな。男がいたからそっちに逃げたって訳だ」

「違っ……」

「春花に何の用だ。ストーカー被害として警察に付き出してもいい」

静が春花をかばうように前に出る。そんな静を見て、高志はますます苛立ったように声を張り上げた。

「人のもの奪っておきながら何言ってんだ」

「春花はものじゃない。さあ、警察を呼ぼうか」

その瞬間、高志はその場に崩れ落ち、先ほどの勇ましい態度が急変したように弱々しい声を出す。

「春花、俺は春花がいないとダメなんだ。なあ春花、やり直そう。アパートも解約しないでくれよ。俺、お前がいないと死んじゃうよ」

懇願するような態度は春花の気持ちをグラグラと揺らがせる。春花だってもう高志からの呪縛からは逃れているため簡単に心を持っていかれることはないのだが、わずかながらの罪悪感が動揺として現れた。

そんな春花の心をピシャリと断ち切るように、静が凛とした声で春花の背中を押す。

「聞かなくていいよ、春花。さあ、車に乗って」

「待てって、春花!」

高志の騒ぐ声に道行く人が腫れ物でも触るかのように遠巻きに見たり避けたりしていた。やばい奴には関わりたくない、誰もがそう思い怪訝な表情をする中、春花だけは去り際に高志をチラリと見た。

「え……?」

ギラリと光る鋭利で気味の悪い輝きが目に飛び込んだ瞬間、春花は無我夢中で静を押し倒した。