暖かなギャラリーに盛大な拍手で迎えられながら、演奏を終えた春花はほうっと胸を撫で下ろしながら静と交代する。
春花はワクワクするような懐かしいような、不思議な気分だった。観客のいる中でピアノを弾くのは何年振りだろうか。高校生の時の、発表会前のドキドキワクワクした気持ちが呼び起こされたかのようだった。
静の演奏が始まると再びしんと静まり返る。
綺麗で繊細なピアノの音色が耳に心地よく響いて、春花はふわふわと海の中を漂っている気持ちになった。静の実力は知っているはずなのに、いつ聴いても心に染み渡って美しい。
感動すら覚えるその演奏はやはり圧巻だった。
「春花」
「はい」
「トロイメライ」
手招きされて静の隣に座る。
「いくよ」
すうっという呼吸音で鍵盤を弾く。一体感の生まれる二人の演奏は観客たちの心を掴み、その音色はしっかりと刻み込まれたのだった。
「やっぱプロは違うわ~!」
「でも山名さんも凄かった~!」
静の生の演奏を聴いた同僚たちは口々に感想を言い合う。それは静を褒めるものだけでなく、春花の存在感さえも確かなものとして彼女の評価を上げた。
「店長、いろいろとありがとうございました」
「こちらこそ、いい演奏を聴かせてもらったわ。ありがとう山名さん。桐谷さん、本当にタダでいいのよね?」
「こちらが無理言って演奏させてもらったんですから、お金なんて取りませんよ。CDまた平積みしていただけると嬉しいかな」
「もちろん、大々的に宣伝しますよ!今日でファンになった子たちも多いみたいだしね」
葉月は、未だ演奏の余韻に浸りながら興奮気味の社員たちに目配せをする。
そんな同僚たちの姿を見て春花は嬉しさでいっぱいになり、静は感謝の気持ちでいっぱいになった。
楽しく心穏やかな時間は春花と静に活力を与えた。