「本物の桐谷静……?」
「店長、こちらは……」
「初めまして、桐谷静です。いつも私のCDを平積みにしてくださっているそうで、ありがとうございます」
「え、いえいえ。私、ファンなんです!サインもらえますか?」
「ありがとうございます。今日は時間がないのですみません。今度お邪魔するときにたくさん書かせていただきます。じゃあ、春花。俺は行くね。また帰りに」
「うん。ありがとう」
静は春花にそっと告げ、葉月にはペコリと一礼をして去っていく。その紳士的な背中に葉月はぼーっと見送っていたが、はっと我に返って春花に詰め寄った。
「ちょっと山名さん!」
「は、はいっ」
「本物の桐谷静だった!」
「そうですね。本物です」
興奮気味の葉月はテンション高く、今あった出来事を思い返しては感嘆のため息を落とす。
そんな葉月を見て、やはり静は有名人で人気者なんだということを改めて実感し嬉しくなった。
「ところで山名さん。桐谷静と同級生って言ってたわよね?」
「はい、そうですよ」
「ふーん」
葉月はニヤニヤとした笑みを浮かべ、春花は首を傾げる。
「ただの同級生には思えないんだけど」
「いや、えっと、その……お付き合いしてて」
「そうでしょうそうでしょう。それしか考えられないわ。よかったじゃない」
葉月は春花の背中をバンバンと叩く。荒々しい葉月の励ましに、春花はほんのり頬を染めながら控えめに微笑んだ。