やがて静が小さくため息をつき、困った顔で春花を見つめた。
「わかったよ春花。俺が毎日送り迎えする。そうしよう」
「でもそんなの……」
「迷惑じゃない。俺がしたいからするだけ」
「……甘えてもいいの?」
「むしろ恋人なんだからもっと甘えてほしいんだけどな」
「えへへ……難しいなぁ」
静がそっと頭を撫でてやると、春花はほんのり頬を染めた。
恋人に甘えること、そんなことはドラマや漫画の世界でしか見たことがなかった。むろん高志に甘えたこともない。
毎日気を遣い高志の顔色を伺いながら生活をしていた春花にとって、他人に甘えるということは安易にできるものではない。甘えようものなら不機嫌になりその場の気分で怒鳴り散らす高志に毒されていたからだ。
そんな春花が高志のモラハラから脱出したいとなんとか正気を保っていられたのは、静の音源があったからに他ならない。静の存在にどんなに癒され助けられたことだろうか。
そんな恋人の静は、春花に甘えてもいいという。贅沢すぎる申し出に春花は萎縮するが、春花の意を汲み取った静は「いいんだよ」と優しく春花を抱きしめた。