「職場がバレてるのはやばいな。きっとまた来るだろう」

「店に迷惑かけちゃう。今日も店長が助けてくれて……」

「仕事辞める?」

「それはできないよ。店としては辞めた方がいいかもしれないけど、私についてくれてる生徒さんたちを見捨てることはできないの」

「そうだな、ごめん。浅はかなこと言った。だけど春花に危害が及ぶ方が俺は心配だよ」

「高志だってたまたま来てただけかもしれないし、何か私に話があっただけかもしれない」

「春花、あいつにどんなことされてたか覚えてるだろ?会ったらきっとまたその繰り返しだ」

「そうかもしれないけど、だからって仕事を休むわけにはいかないよ」

春花はたくさんのピアノレッスン生を受け持っている。春花のことを慕って毎週レッスンに来る生徒たちのことを思うと、まったくもって仕事を辞める選択肢は出なかった。

一方でやはり高志の存在は恐怖の対象である。今までの経験上、会ったところでまともな話が出来るとも思わないし、そもそもなぜ高志が春花を待ち伏せしていたのか、目的もわからない。

仕事を辞めたくない春花と心配だから行かないでほしい静。お互い言葉は選んで話しているが、二人の話し合いは平行線を辿った。