できるだけ心を落ち着けて、先ほどあったことをゆっくりと話す。途中震えてしまいそうになる春花だったが、静は急かすことなく春花の言葉に耳を傾けた。

そして一部始終を聞いた静は怒りで震え腸が煮えくり返りそうになった。大切な春花に身の危険が迫っている。怯えた春花は青白い顔をして今にも泣き出しそうだ。

「……ごめん、何とかするから」

気丈にも微笑もうとする春花を、静は叱り飛ばした。

「そうやって抱え込むな。俺の前で強がったりするなって言っただろ?」

思い出されるのは音楽室での記憶。家庭の事情で音大に行けなくなったと静に告げたあの日、笑ってごまかそうとした春花に対して静は言ったのだ。

――俺の前で強がったりするな

厳しくも優しい言葉は、まるで春花を包み込むかのようにゆっくりと心に浸透していく。

「……どうしたらいいんだろう?」

高志のモラハラに耐えて耐えてようやく抜け出した道。勇気を出して別れを告げ、どうにか解放されたと思ったのだ。

そしてやってきた静との幸せな時間。ようやく掴んだ幸せは穏やかで心地よく、過去の自分を忘れてしまうほどに暖かかった。