非常口である裏口からそっと外へ出た春花は、店の前を避けてそのまま駅まで走った。
いつどこで高志に気づかれるともわからない。背後から突然呼び止められるかもしれない、もしかしたら掴みかかられるかもしれない。高志に罵られていた日々がフラッシュバックする。会えばきっとまた怒鳴られるのだろう。そんな恐怖に怯えながら、マンションに着くまで気が気ではなかった。
「おかえり春花。……どうしたの?」
息を切らしながら玄関を後ろ手に閉めると、春花はズルズルとその場に座り込んだ。
リビングから顔を出した静が慌てて駆け寄る。
「大丈夫?」
「……どうしよう」
「どうした?」
春花は静のシャツの袖をぎゅっと握る。その手がカタカタ震えていることに気づき、静は眉間にシワを寄せた。
春花の手を取り両手で優しく包んでから落ち着かせるように背中をそっと擦る。
「落ち着いて、春花」
背中を擦る手の動きに合わせて、春花は大きく息を吐き出した。恐る恐る静を見れば心配そうに寄り添ってくれている。
頼れる人が側にいる。
それだけでも以前とは比べ物にならないくらいに心が落ち着き、消えかけていた勇気が湧いてくるようだった。