甘く蕩けるようなキスは二人の失っていた時間を取り戻すかのように心に沁みて、そっと唇が離れた後も余韻が残っている。お互い顔を見合わせると、照れながらふふふと笑った。

「ずっと好きだったんだ。だから春花に彼氏がいてどうしようかと思った」

「私もずっと好きだったの。でも桐谷くんは雲の上の人だからあきらめてたの」

「そんないいものじゃないよ」

「ううん。すごいんだよ。……桐谷くんこそ彼女は?」

「彼女?」

「フルート奏者の人。芸能ニュースで見たよ」

「ああ……。打ち上げがあって帰り一緒に帰っただけ。彼女でもなんでもないよ」

「そっか」

春花は胸を撫で下ろした。ずっとモヤモヤしていた気持ちは静自身の言葉によって霧が晴れていくようにすっと引いていく。自分はまだここにいていいんだと安堵した。

「だからさ、春花は出ていかなくていい。一緒に暮らそう」

まるで心を見透かしたような静の発言は春花の心臓をドキッと高鳴らせる。

夢を見ているかのような展開に信じられない気持ちでいっぱいになり、春花は静に訴えた。

「私の頬っぺたつねって」

「ん?こう?」

「……痛い」

「えっ、ごめんっ!そんな強くつねったつもりじゃ……ごめん、大丈夫?」

言われるがまま春花の頬をつねった静は慌てて手を引っ込める。オロオロとし出す静に、春花は声を上げて笑った。

「あははっ!痛いから夢じゃないね!」

「夢じゃないよ。驚かせるなよ」

静は困ったように笑い、優しく春花の頬を撫でる。温かくて優しい手つきに春花はうっとりと身を委ねた。

「もう一回キスしていい?」

「うん」

甘く微笑んだ静に胸をときめかせながら、春花はゆっくりと目を閉じた。

窓から射す木漏れ日は暖かく二人を包んでいるようだった。