日本の、それも地元で開催するコンサート開催を決めた静は、意を決して春花にチケットを送った。
住所が変わっていたらどうしよう、ちゃんと届いたとしても果たして春花は来てくれるだろうか。
これ以上後悔はしたくないと思いながらも不安はつのる。だが、それとは別に一歩踏み出した満足感もあった。やっとスタートラインに立てた気がしたのだ。
自分が送ったチケットの席番号はわかっている。リハーサルのとき客席に下りて場所を確認し、舞台からもまた確認する。
「……意識しすぎだろ、俺」
自分の行動に思わず苦笑いをするが、それほどまでに春花を意識していることを改めて実感し、静の気持ちは益々高ぶっていった。
落とされた照明の中、静は春花を見つけた。はっきりとは見えないがそのシルエットだけで春花だと確信が持てる。
チケットが届いたこと、春花が来てくれたことが、静の心を安堵と喜びで満たしていく。最高のパフォーマンスでおもてなしをし、春花への想いよどうか届けと願わずにはいられなかった。
演奏を終えた静はジャケットだけ脱ぎ捨てると、慌てて出入り口まで走った。あわよくば春花と会いたい。
そんな奇跡の再会を夢見るように、ひたすらキョロキョロと探し回る。と、ホールを出たところで一人歩く春花を見つけた。
「山名!」
静の声にビクッと肩を揺らし、春花は恐る恐る振り返った。
「……桐谷、くん?」
高校生の頃と全然変わっていない、いや、むしろ外見はとても綺麗で大人の女性になった春花に、静は胸がいっぱいになった。