告白できなかったからといって、静の春花への気持ちが変わるわけではなかった。

――俺が山名の分まで音大で頑張ってくる。ピアニストになってみせる

音大に行けなくなったと泣いた春花にそう宣言した手前、頑張らない訳にはいかない。

このもどかしくどうにもできない気持ちをぶつけるにはピアノしかない。静は大学で一心不乱にピアノに打ち込んだ。

その甲斐あってか、静はめきめきと実力を発揮しコンクールで何度も賞を取って実績を積み重ねていった。

静の初めてのコンサートは海外だった。決まったときはただただ嬉しくて、ようやくここまで来たのかと自信に満ち溢れた。

「海外に来てとは言えないよな……」

静はため息ひとつ、さすがに気が引けて春花にチケットは送らなかった。

ここぞと言うときに遠慮してしまう悪い癖はなかなか直らない。

あの時だって告白していたら……などと何度後悔したことだろう。

「今さら遅いかもしれないけど……」

自虐的に笑うと自分の情けなさが露呈するようでなおさら落ち込んだ。

もしも今後日本でコンサートを開催することがあれば、次こそは春花にチケットを送る。これ以上の後悔は重ねたくない。

本当に、何もかも祈る気持ちだった。