卒業式を間近に控えた放課後、二人は思い出のトロイメライを連弾した。

これが学生生活最後の連弾かと思うとより一層熱がこもる。隣に座る春花の存在を感じ取りながら、心を込めて鍵盤を打ち鳴らした。

演奏後の高揚感は静に勇気を与える。
今が告白のチャンスだと確信した。

だが、静の気持ちとは裏腹に春花は笑顔で言う。

「ずっと応援してるね。桐谷くんのファン1号だから。コンサートのチケット送ってよね」

それは残酷だった。それ以上何も言わないでほしい、このままの関係を崩すなと言われているようにしか思えなかった。

静は息をゴクンと飲み込む。
告白する前に玉砕したのだ。

「……うん」

それしか静は言葉が出ない。告白をするなんていう決意は一瞬で吹き飛んでしまったし、告白をしようという勇気すらどこかへ行ってしまったかのようだ。

二人の関係が壊れるのが怖かった。
この心地よい距離感が変わってしまうのが怖かった。

――絶対にピアニストになって春花にチケットを送る――

そう新たに決意し、二人の関係は進展することも壊れることもなく、穏やかに卒業の日を迎えたのだった。