「あなたたち、連弾してみたらどう?」

ある時顧問からそう提案された二人は、遠慮しつつも頷いた。

お互い気になる存在ではあるものの、その距離感は遠い。

だが、このことをきっかけに静と春花は一緒にいる時間が増え、ピアノの練習を媒介としてプライベートなことも話すようになっていった。

それは求めていたことであり、関係が一歩進んだことに喜びを隠しきれない。毎日放課後が楽しくて仕方がなかった。

「うちは両親が不仲だからさ、学校にいる方が楽しいんだ。桐谷くんとピアノを弾いている時間が一番楽しいかな」

「俺も山名とピアノを弾くの好きだな」

「……えへへ」

お互い顔を見合わせて照れたように笑う。

生きていれば誰だって嫌なことのひとつやふたつあるに決まっている。静だって、ピアノに関して言えば家庭に不満があるのだ。だから春花の悩みもその程度なのだろうと軽く考えていた。

そうやって二人は想いを共有し意気投合することで、静の春花に対する想いは募っていった。