離ればなれになり静がピアニストとして成功を収めていくにつれて、自分とは生きている世界線が違うのだと悟ったあの日、春花は静に対する【好き】という気持ちを【憧れ】へとシフトさせていった。

そうやって気持ちをすり替えることで自分自身を納得させて過ごしてきた。

だからこそ他に恋人を作ることができたし、高校生の時の思い出は綺麗なまま春花の心の中に大切に保管されている。

静と再会できたことは奇跡のように感じるし居候させてもらっていることもまるで夢のようなのだ。

ここできちんとけじめをつけないといけないのだろうと、春花は気持ちを強く持った。

だがそんな春花の気持ちを静は一瞬で打ち破る。

「俺が春花を守るって言っただろ?」

その強くて優しい言葉は春花の心に突き刺さった。意図も簡単に。

「……桐谷くん優しすぎるよ」

「大事な春花のためだから」

春花は自分自身が弱っていることを自覚していた。だから静の優しさは心地よくてつい甘えたくなる。高校生の時のようにずっと隣にいたいとさえ思えるのだ。