静の家に居候すること早一週間が過ぎた。日々目まぐるしく過ぎていき、ようやくの休日である。

春花はアパートの解約手続きをしに不動産屋まで出掛けた。同時に次の物件も探さなくてはいけないため何ヵ所か候補を出してもらい見学をさせてもらったが、結局その場で決めることはできなかった。

「おかえり、今日は早かったね」

マンションへ帰ると静がキッチンでコーヒーを淹れており、春花にもマグカップを差し出した。

「ありがとう。今日は休日なの」

「そっか。どこへ行っていたの?」

「アパートの解約と次の物件探しだよ」

静からマグカップを受け取ろうとして春花はドキッと肩を揺らす。静の表情が強張っていたからだ。静は落ち着きながらも強い口調で言う。

「なんで?探す必要ないだろ?ここに住めばいいんだから」

「ダメだよ」

「どうして?」

「だって……迷惑かかるし」

「俺が一度でも迷惑だって言った?」

「言ってないけど。でも……」

と、そこで春花は口をつぐむ。いつだったかワイドショーで見た【ピアニスト桐谷静、フルート奏者と熱愛報道】が頭を過りいたたまれない気持ちになってくるのだ。

同級生だから、静が優しいから、だから困っていた春花を助けてくれただけであって、いつまでもそれに甘えてはいけない。静にも、静の恋人にも申し訳ないからだ。

だがその事を口に出すことはできなかった。

そんなことは知らないままで、ただ静に甘えられたらどんなに幸せだろうか。

ずっと好きだったのだ。高校生のときからずっと、春花は静が好きだった。