静が帰宅するとピアノルームから明かりが漏れており、不思議に思ってそっと中を覗いた。

中では春花が横たわっており、驚いて思わず声を上げそうになる。

「春……」

「ニャア」

春花に包まれるようにして猫が顔を上げ、その心地良さそうな表情に二人で寝ていただけなのかとほっと胸を撫で下ろす。

「まったく、驚かすなよ。ほら春花、こんなところで寝ると風邪ひく――」

揺り動かそうとして、ハタと手が止まった。春花の目元は涙に濡れ、苦しそうな表情で眠っていたからだ。

「ニャア」

「お前、春花のこと慰めてたのか?偉いな」

静が撫でようとすると猫はその手をすっと避け、再び春花の胸元で丸くなる。

「……おい、飼い主は俺だぞ」

静は苦笑いしながら立ち上がると、別室から毛布を持ってきて二人に掛けてやった。

コンコンと眠り続ける春花。
固く握られた手。

静はその手にそっと触れる。

「……遅くなってごめん」

小さく呟いた言葉は、猫だけが片耳をピクッと揺らして聞いていただけだった。