春花は何だか惨めな気分になり、泣きたくなった。

と、突然携帯が鳴り出す。

「もしもし?」

『春花、何で出ていくんだ?』

「高志……。あなたが出ていけって言ったじゃない」

『そんなの嘘に決まってるだろ。春花を試したんだ。ああやって言えば春花は優しいから振り向いてくれると思った』

何を言われても、高志の言葉は嘘にしか聞こえない。もう彼に振り回されるのはうんざりだ。

「もうアパートの契約解除するから。あなたも出ていってね。私知らないから」

『は?ちょっと待てお前何言ってんの?くそが、死ねよ』

「もう私は死んだと思って。さよなら」

春花は今まで出したことのない冷ややかな口調で告げ、乱暴に電話を切った。

「はぁー」

ほんの少し緊張が解け、その場にペタンとへたれこむ。手のひらから滑り落ちた携帯電話は何度も鳴り続け、高志からの着信履歴で埋まっていった。

一体いつまでそうしていたかわからない。

「ニャア」

「……猫?」

春花の左指をクンクンと鼻を擦り付けながら時折ペロペロと舐める猫。

「……桐谷くん猫飼ってたんだ。君、慰めてくれるの?優しいね」

「ニャア」

猫は人懐っこく春花に擦り寄り、撫でてほしいとばかりに頭をグリグリと寄せる。

「ふふっ、可愛いね」

春花は要求通り頭を撫でてやる。猫は気持ち良さそうに目を細めた。