静のマンションには防音設備の整ったピアノ専用の部屋がある。その他にも二部屋あり、荷物を置かせて貰うだけでもありがたいというのに、静は春花に一部屋使って良いと開け放した。
初め遠慮した春花だったが、マンションは職場からさほど遠くない位置にあり通勤にも困らない。下手にリビングに居座るよりも自分の部屋で静かに過ごすことの方が迷惑にならないのではと考えて、春花は次の家が決まるまでありがたくここに住まわせてもらうことにした。
「俺は夕方から外出するけど」
「あ、私も夕方から仕事なの」
「ん、じゃあこれ渡しておくよ」
差し出された手を両手で受ける。と、固くてひんやりとした感触に目を疑った。
「こ、これ……」
「うん。鍵」
「だ、ダメだよ」
「どうして?鍵がないと困るだろ」
「でも……」
「自由に使っていい。俺は仕事の時間がバラバラだから」
そのまま握らされ、合鍵に良い思い出のない春花は戸惑いながらも大事に受け取る。
無機質なモノなのに、やけに心が騒がしいのはなぜなのか。ぽっと灯る柔らかな温もりはゆっくりと浸透していくように、春花の心を包み込んでいった。
初め遠慮した春花だったが、マンションは職場からさほど遠くない位置にあり通勤にも困らない。下手にリビングに居座るよりも自分の部屋で静かに過ごすことの方が迷惑にならないのではと考えて、春花は次の家が決まるまでありがたくここに住まわせてもらうことにした。
「俺は夕方から外出するけど」
「あ、私も夕方から仕事なの」
「ん、じゃあこれ渡しておくよ」
差し出された手を両手で受ける。と、固くてひんやりとした感触に目を疑った。
「こ、これ……」
「うん。鍵」
「だ、ダメだよ」
「どうして?鍵がないと困るだろ」
「でも……」
「自由に使っていい。俺は仕事の時間がバラバラだから」
そのまま握らされ、合鍵に良い思い出のない春花は戸惑いながらも大事に受け取る。
無機質なモノなのに、やけに心が騒がしいのはなぜなのか。ぽっと灯る柔らかな温もりはゆっくりと浸透していくように、春花の心を包み込んでいった。