ポロ、ポロ……と涙が溢れ落ちた。

泣きたいわけじゃない。ただ悔しくてやりきれない想いが春花の心をぐちゃぐちゃにする。

電子ピアノをスタンドから降ろしてカバーを付けソフトケースに入れる。両親が離婚して引っ越しをする際、ピアノを売ることになったあのときの気持ちとよく似ている。

今回ピアノは売らないが、突然訪れた出来事に頭がついていかない。喪失感が春花を支配し、理解することを拒絶しているようだ。

――ブブブ、ブブブ、

突然携帯電話が震え出し、春花はビクッと肩を揺らした。

恐る恐る手に取ると画面には【桐谷静】と表示されており、春花は涙を拭ってからそっと通話ボタンをタップする。

「……もしもし」

『山名?昨日イヤリング落としてないか?楽屋の忘れ物で届けられてたみたいなんだけど』

「え?あ、うん」

『山名?』

「うん」

『泣いてる?』

「……ううん」

『嘘だ』

「……桐谷くん」

穏やかで優しい静の声は春花の耳にたおやかに響き、やがて体全体へ浸透していく。その安心できる声に、一度止まった涙が再び溢れ出した。

『どうした?』

「うっうっ、桐谷くんどうしたらいいか……」

『……山名、今どこにいる?』

静の声色が緊迫したものに変わる。静にこんな話をしていいものかと一瞬躊躇ったが、それよりも今は誰かに話を聞いて貰いたいことの方が気持ちが大きい。

春花は泣きながら現状を伝え、事実を口にするたび悔しさが込み上げてきて時々嗚咽が漏れた。

『山名、ゆっくりでいい、落ち着いて』

耳に響くその声はしっとりと優しく、すがりたい衝動に駆られた。