静のコンサートはまたしても特等席が用意されていた。期待に胸を膨らませながら、春花は舞台を見守る。ここ数日、高志のことでいろいろありすぎて疲弊していた春花だったが、今日のこの日を楽しみにしていた。むしろこのコンサートを励みに日々を過ごしていたといっても過言ではない。

やはりグランドピアノに劣らず存在感を放つ静は、スポットライトに照らされてより一層輝いて見えた。流れる旋律は耳に心地良く響いていく。

(ああ、いいなぁ)

静の音楽に癒されるだけではなく、弾いている姿は春花をうずうずとさせる。

(私もピアノ弾きたいなぁ)

静の演奏する姿を見ていると、高校の時のあの音楽室での思い出が鮮明によみがえってくるのだ。あの時が一番楽しくて輝いていた。春花はじんわりとした気持ちに思わず目頭を拭った。

コンサートが終わるとロビーが人で溢れかえり、しばらくすると黄色い歓声が上がった。

(何だろう?)

出口に向かって自然と列が出来上がり、春花もその波に乗った。珍しくお見送りがあるのだ。お見送りとは、こういったコンサートの終演後、演奏家がお客様の元へ姿を現し言葉を交わしたりできる貴重な場である。

一人ずつ丁寧に対応する静を遠巻きに見ながら、優しいところは昔と何も変わっていないのだと春花は嬉しくなった。