いつもより少しフォーマルな服を着て、いつもより少し化粧にも気合いが入った。春花は鏡の前で角度を変えながら何度も自分の姿を確認する。

春花と静は高校を卒業してから一度も会っていないが、静が益々魅力的な男性になっていることを春花は知っていた。

それは街に掲げられているポスターであったりテレビを賑わすワイドショーから得た静の情報からだ。

静は高校生のときもかっこよくて優しくて思いやりがあって、春花は何度も告白しようと思った。けれど告白してもしフラレたら、もう一緒にピアノを弾くことができなくなるかもしれない。この幸せな時間が一瞬で崩れ去るかもしれない。

そう考えると告白する勇気が出なかった。
ずっとキラキラした素敵な思い出として残しておきたかったのだ。

今さら静とどうこうなる気はない春花だったが、気持ちとは裏腹に無意識に身なりを整えていた。

駅前の花屋で足が止まる。花束を持っていったら迷惑だろうか。そんなことを思いつつも春花の気持ちは高まりを抑えられない。

「すみません、花束を……」

今できる最大限のお祝いをしたい。春花は静のイメージである淡い色合いの花を見繕ってもらい、胸に抱えて会場へ急いだ。