放課後の音楽室は傾き始めた太陽の日差しが燦々と降り注いで、室内をセピア色に染めていた。

春花(はるか)は耳を研ぎ澄ます。隣に座る(せい)と目配せをし呼吸を合わせ、指先に神経を集中させた。

静のすうっという呼吸音を合図に指を動かす。ポロンポロンと柔らかいピアノの音色が教室に響き渡り、心地よい空間が生み出された。

山名春花(やまなはるか)桐谷静(きりたにせい)は高校三年生。一年のときから音楽部に所属している。二人ともピアノが得意で、合唱コンクールのときはどちらがピアノを担当するかでよく議論になった。

「桐谷くんのピアノはすごいから」

たいていは春花がそう結論付けて身を引いていたのだが、いつからか静も、

「今回は山名の方が上手いと思う」

と春花のピアノの腕を認めるようになっていた。

もともと合唱に力を入れていた音楽部だったが、二人のピアノの実力を認めていた顧問は音楽部とは別に、連弾でコンクールに出場してみないかと提案した。

ピアノコンクールは予選、本選、コンサートと一年がかりのイベントだ。当然予選を突破しなければ次へ進めないのだが、春花と静は毎日放課後に音楽室で練習に励んだ。

高校三年生ともなると基本的に部活は夏の大会を最後に引退となる。そして受験モードへ移行していくわけなのだが、順調に予選を突破した二人は夏を過ぎても音楽室に入り浸っていた。