黒板に校歌と、“1年生”というワードを書き加える部長。
「次の指揮者とリーダーは、そろそろ相談してるのかな?」
「……」
 そうか。次の、指揮者。
 来年の活動はともかく、燈子先輩の指揮は夏の大会と、10月の文化祭で終わり。そのあとは、今の1年生、つまり次期2年生である俺たちの代が、部長や指揮者、会計、パートリーダー等々を継いでいくわけだが…
 俺は隣に座っている翔太をチラッと見る。
 恐らく、テナーのリーダーは翔太で決まりだろう。あと1人いるテナーの1年は週に半分くらいしか練習に来ないし、俺も含めた3人の中でテナーを引っ張っていける熱意と実力があるのは翔太以外に考えられない。
 そもそも…
「まだ決まっていません! 今月中に、1年で集まって相談しますっ」
 うわっ。
 盗み見ていた翔太が急に口を開いたので、俺は少し驚いてしまう。
 どちらかというと、部長気質か? こいつは。中学の合唱部でも部長だったしな…。
 チョークを持った現部長がにこやかに頷いた。
「分かった。決まったらまた集まろう。1年の曲目は次の指揮者が振ることになるし、楽譜も次の会計が…」
 部長がまだ何か喋っているが、俺はあんまり聞いていなかった。
 そもそも…俺は来年、どうしているだろうか。
 3年になった燈子先輩と歌えるものだとばかり思っていた俺は、合唱部に残る理由の半分以上を見失っていた。

「あ~ッ! 来年どうすっかなー!」
 会議の日はいつもより終了時間が早い。まだ日は高く、歩いているだけで汗が出る。
 俺はいつも通り翔太と川沿いの道を帰りながら、会議でのモヤモヤを晴らすようにわざと明るく叫んだが、まあ晴れるはずはなかった。
「どうするって達樹、何かやりたいポジションでもあるの?」
 俺の気も知らず、来年の在籍を前提に受け答えを返す翔太。
「会計とか?」
「なんでだよ。俺が数字の計算なんかできるわけないだろ」
「知ってるけど」
 くそっ。ちょいちょい上から来るこの感じ、地味にイラつくな。少しは出来るぞ…。
「達樹…テナーのリーダーとかどう?」
 いつも翔太と話し込む、広めの河原についた。今日は少し、風が強い。
「え? リーダー?」
 草の揺れる音で微妙に聞き逃した俺は、慎重に聞き返す。