練習に没頭するあまり最初の期末テストがボロボロだったりしながら、梅雨が明け、大会を間近に控えて曲も仕上がってきた、7月下旬。冷房のない音楽室はうだるような暑さだ。
 この日は練習ではなく、文化祭の演奏曲目を決定する会議だった。
 歌わない俺たちの代わりに、セミが大合唱している。
「えーと、今練習してる大会の課題曲と、自由曲はトリ前でいいよね」
 黒板に曲目を板書しながら、部長がつぶやく。部員に異議は無い。
「春の合唱祭で使った曲はどうしよう?」
「3曲あるからね。全部やってもいいし、抜粋でもいいかな…燈子ちゃんどう思う?」
 話を振られた燈子先輩は、少し考えた後、「リーダー4人が全員、文化祭出てくれるなら、3曲ともやりたいな」と無表情で答えた。
 4人とも出場の意を示し、部長の手で曲目が書き加えられる。
「そうだよね、僕も春の3曲はセットでやりたかった。燈子ちゃんの卒業公演だもんね」
 書き終えた部長が部員たちに向き直り、満足そうに口にしたのは…俺にとってショック以外の何物でもない、問題発言だった。

(卒業…公演…?)

 おいおい、待ってくれよ。燈子先輩、指揮者が終わったら、ソプラノの3年生として部員に戻るんじゃないのか? 今も、3年生だけど夏の大会も文化祭も出てる先輩、いるよな…?
「うん。あたしと、佐藤くんと平川ちゃんは卒業公演だね。他のみんなは?」
 アッサリ肯定する燈子先輩に続いて、2年生が口々に自分の進退を口に出す。ざっと半数ぐらいは、進路に余裕があるか推薦を活用するなどの理由で、3年になっても活動を継続。あとの半数は文化祭を機に引退し、就職活動や受験勉強に専念するということだった。
 燈子先輩は受験組だから、それを聞けば分かることではあったが…俺は今も残って活動している3年の先輩を見て、燈子先輩も当然来年の活動に残るものだと勝手に信じ込んでいた。
 それはそうだろう。残っていない3年生は、もちろん、普段の活動に滅多に顔を出さない。つまり俺が認知しているのは残っている3年生だけだ。8割ぐらいは残って少数が引退するものと勝手に思っていたが、実際は、会ったことのない引退済みの3年生がまだまだいるということなのだ…。
「2年生メインの曲はこれぐらいかな。あ、オープニングの校歌は燈子ちゃんの指揮でいいよね…次は1年生メインの曲だけど」