大きな目、つんと伸びた鼻、大きな口、整った輪郭、そして、さらさらヘア。
 服装は、制服のYシャツをだらしなく着て、スカートはかなり短く、ダボダボの白いハイソックス、そして、15cmはあろうかという、厚底の靴。
 すごいセンス。そのくせ、アクセサリは、安っぽいネックレスとブレスレットだけ。何ともちぐはぐに感じるセンスだった。
「た〜まや〜!」
 ヤマンバは、花火に合わせて叫んでおいて、眉間にしわを寄せて、ものすごく不服そうにこっちを見た。
「『た〜まや〜!』っていったら、『か〜ぎや〜!』って、叫べやあ!」
「ぎゃああああああああああああ」
 襲われる!
 なんなの!? それ、やんなきゃいけないの!?
「誰もいないじゃん。大丈夫っしょ!」と言ったかと思うと、「あんたも言いなよ!」矢継ぎ早に促される。
「かーぎやー」
 じっと見つめてくるから、なんか恥ずかしくなった。
 あんまり大きな声を出すと、周りのお客さんの迷惑になる……と思ったけど、そもそも、お客さん、この車両には、他にいなかった。
「たーまやー」
 ヤマンバ……彼女の十分の一の声も出せない。
「声が小さい!」
 怒られた。なんなら、腹式呼吸で出せとか言われた。
 これでも、中学の時は、合唱と吹奏楽をやってたから、ちょっとむっとした。
「た〜まや〜!」
 最大限、出せるだけ出した。すると彼女は、その真っ白で大きな口でにっこり笑って、
「チョベリグ〜!」
 それ、褒め言葉の単語で合ってる?

 電車が、運転を再開した。座席にちゃんと座り直した。2人ともぐしょ濡れだから、座席が水浸しになった。鉄道の人、ごめんなさい。
「たまやとかぎやって、知ってる?」
 ヤマンバは、濡れてることなんて何にも気にせず、そう言った。何を知ってると聞かれているのか、よくわかんなかった。ちょっと戸惑っていると、解説してくれた。(親切だ)
 なんでも、玉屋も鍵屋も(漢字ではこう書くらしい)、どっちも数百年ほど昔の花火職人のお店だったらしい。で、玉屋は、鍵屋の弟子にあたる。
 当時の花火は、やっぱり川沿いでやっていたらしいけど、花火職人をたたえて、そのお店の名前を叫んでいたらしい。
 玉屋は弟子なのに、最新技術を取り入れたから、師匠よりも人気があったらしい。だから、たまやの声が先に上がる。そして、たまやと言ったら、かぎやと続く。
「へえ」