「美波ちゃん、物知りなんだね」

「そんな……、本で読んだことをたまたま覚えていただけで」

「読んだことを覚えていられたのも、わたしが突然夏の話題を振ったのも、美波ちゃんがそれにほとんど詰まることなくすらすら言えたのも、全部重なって全部すごいんだよ! 偶然が重なっただけなのに言えたからこそさらにすごいの! 謙遜しない!」



そういう考え方はしたことがなかった、と思った。



それってつまり、いま、本で詳しく読んだことのあったわたしだからたまたま覚えたいたことを、たまたま披露する機会があって、でもそのたまたまが起こる確率なんて低いのに成功できたからすごい──ってことで。



あ、なんて、脳の奥のほうで何かがスパークした。炭酸飲料を飲み干したあとみたいな。



そうか、わたし、好きなものから得たものを、言語化してだれかに伝えたいのかな。わたしは言葉にするのが好きなんだ。きっと。それで、好きなものを好きだって、相手にも伝えられるように、自分自身の抱く好きに自信をいだけるように、いたいんだ。たぶんそうだ。



やりたいことをやりたいと、自分の中で後悔するかもしれないと思ったことは後悔するかもしれないと、はっきり自分を表していた綾くんみたいに。

キラキラのアイシャドウを纏って、自分の好きを貫いている、まっすぐさのある久原さんみたいに。

そうなりたいんだ。



文化祭のときにもやもやしたのは、好きな絵を描くということで応援してもらえるのは嬉しいけれど、やりたいと思っていた案内キャスト──言語化して、自分の好きだと思ったところをお客さんに伝える仕事がしたかったからじゃない?

そうして、やりたいことがあったにもかかわらず、やりたいと言い出せないまま、これも好きだから、と美術に手を出したからなのかもしれない。



あのタイミングで、わたしは、絵を描くというものの順位を妥協したんだ。やりたさとしては二番目だったけれど、これがいちばんでもいいかなあって。

自分の好きに、自信をもっていたかった。自分の好きを、はっきりと言葉にしていたかった。



そうか、と納得する。