と、そこで久原さんが口を開く。
「この水が冷たくてよかった、って今日すごい思うな。暑いよねえ。でも、クーラー効かせすぎるとお客さんは寒いだろうし」
「そうですね、働いていると暑いんですけど、動いてない状態でクーラーの風が直接あたると、寒いですよね……」
「そうそう。ほんっと、夏場は大変だよね。しっかり水分補給しながら働こうね」
「はい、気をつけます」
熱中症や脱水症状を引き起こしてしまったら大変だ。家からここまで歩いてきただけでもだいぶ暑かったし、本格的に働き始めたらもっと暑くなりそう。
気をつけないと、ともういちど気を引き締めたところで、久原さんが「美波ちゃんさ」
「はい?」
「熱中症になったときの応急処置、とっさに浮かぶ? クーラーが効いてる室内に行く、氷で冷やす……とかしか浮かばなくて、なんか気になってきちゃった。もっといろいろあったよね?」
首をかしげられて記憶をたどる。
えーと、たしか……。
「風通しのいい日陰も効果的なので、室内が遠かったらそこでも大丈夫ですよ。それから……あ、洋服をできるかぎり脱がせたり、皮膚に水をかけたり、団扇や扇風機で冷風を送ることも重要です。氷は首、脇の下、太腿の付け根などにやると体温が下がりやすい。それから、水分補給と塩分補給も大事ですけど、意識障害や吐き気の症状があるときなどは……」
思い出せるだけ話していって、途中で、しゃべりすぎたとはっとした。少し気になっただけだと思うのに、べらべらと述べすぎてしまった。
「すみません、久原さん。わたし、話しすぎてしまいましたよね」
「すっごいよ、美波ちゃん!」
「え?」
「そんなにすらすら出てくるなんてほんとうにすごいよ、こんなに暑い夏でも乗り切れそう! って思うくらいすごかった!」
目を見開いて、瞳をキラキラさせている久原さんに見つめられる。なんとなく照れくさくなって、思わずくちびるがもにゃもにゃ、というふうに動いた。この動きも動きで恥ずかしいけど。