わたしの中では、ほんとうは、やりたいことが決まっているんじゃないか。それを口にするだけの、行動し始めるだけの、勇気がないんじゃないか。
そこまで考えて、やっぱりよくわからないなと首をひねった。
好きなことと、それを仕事としてやりたいかどうかは、正直、まだよくわからない。
歩きながらまたもやもやと考えてしまって、ドアを開ける前に立ち止まり、深呼吸。
これからは仕事。切り替えないと。
三回ほど吸って吐いてを繰り返し、頷いてからドアを引いた。シフトに入る前は、毎回不思議なくらいに緊張してしまう。仕事をすごく特別なものだと思っているからなのかもしれない。
「おはようございます」
「あ、美波ちゃんおはよう!」
まず、レジ付近に立っていた久原さんに挨拶をする。久原さんは大学二年生で、今日も目元がキラキラしていた。まぶしくって、自分の好きを貫いている感じがして、いいなと思う。
「今日はすっごく暇だから安心してね。じゃあ着替えておいでー!」
元気に送り出されて、少しほっとする。暇なんだ。忙しいほうがお店的にはいいのだろうけれど、やっぱり忙しいとあまりにも大変で。
更衣室で着替えてから、再度フロアにもどる。
「おはようございます」
「うん、おはよう。がんばってこうね」
久原さんはとにかく仕事ができる。フォローに入るタイミングが的確で、お客さんに話しかけられたときの応答もハキハキしていて、迷いが感じられない。世間話をふられたときも上手で──わたし、久原さんに憧れてるんだろうな。
わたしも、お客さんに話しかけられたときはとにかくハキハキ、しっかり答えよう! って意気込んでいるのに、どうしても緊張してしまうことが多い。
どうにかしたいな、と、手を洗いながら考えた。