わたしが綾くんにどハマリして毎日配信アーカイブを見るようになるまでは、完全に時間の問題だった。

ホラーゲーム配信から始まって次に引退のお知らせ配信、その次に脱出ゲーム。次の日は課題に集中しようとがんばって机にかじりついていたけれど、そのまた次の日に綾くんの三十分ほどの雑談配信を見てから同じ動画を流しながら勉強したほうが効率がよくて驚いてしまった。



これが、沼、というものなんだろうなと思う。いままで見たことがなかったのが嘘のように、綾くんに首根っこを掴まれて沼に引きずり込まれたみたいだ。

実際にはそんなに物騒なことじゃなかったけど。



呼び方もすっかり、他のファンの方々と同じように綾くんで定着した。本人が綾くんって呼ばれると嬉しいと照れくさそうに話していたのも大きい。



引退のお知らせ配信──というよりも、わたしがそうだろうと思っていたアーカイブを見てわかったことだったのだけれど、綾くんは引退をするわけではないらしかった。

活動を休止する、という言葉が、てっきり、引退という言葉のポジティブな言い方だろうと踏んでいた。しかしちがうらしい。



「資格をね、とりたくて。なんの資格? ないしょー。俺は俺でがんばるから、みんなはみんなでがんばりたいことがんばれてたらいいと思うんだ。比べることじゃないしね、だから、内緒」



それが活動休止の理由。



「もどってくるの? ……どうだろう。ごめんね、わかんない。これはほんとうにごめんけど、わからないんだ。俺の中で、資格とれなかったな、しんどいなって思ってるのに言っちゃったから配信しなきゃってなるのは嫌だし。とれててもすぐできるのかってわからないから、無責任な約束はしたくない。俺は自分自身と向き合ってこの決断をくだしたと思ってるけど、この決断をめちゃくちゃ後悔することもあるかもしれない。──うん、ごめんね。わかんない」



綾くんのこの想いを聞いて、また、格好いいと思った。

多くのひとが望んでくれているから、と流されることなく、自分を持っている。そうして自分を持っている上でわかりきっているとは思わず、様々な可能性を考えている。