いま開いたこの動画は、ホラーゲーム?
思わず勢いよく背後を確認してしまう。夜中にひとりきりの部屋で見るホラーゲームはすごく怖い。怖いけれど、でも、負けたくなさが出てきた。
夏だし。暑いし。たまには自分を試すみたいにさ、って頭の中でいくらか並べていると、やがて最初の待機画面のような表示から背景が切り替わった。
そうして画面外から現れる、彼。
「みんなこんばんはー! 綾だよ。こんばんは。うん、こんばんは。綾くん今日夜ご飯何食べた? オムライスだよ。同じだ! ほんと? おんなじ?」
彼は次々と流れていくコメントを少しずつ読み上げて返答しているようで、ひとりで進められていく会話に最初は驚いてしまった。
でもすぐに、楽しくなってくる。
「最近やらかしたこと? んー……あ、パジャマでコンビニ行っちゃった挙句前後ろ逆だったよ」
「……ふふ、なにそれ」
セピア色の猫っ毛な髪や、猫を擬人化したらこうだろうなと思うような目のかたち、薄くグレーのかかったような白い瞳、白い肌。口元から覗く八重歯。
見た目はかわいくて強そうで、という、猫そのもののような感じ。
それでいて声は、ほんわかしたようなおっとりしたような、あたたかくてまるみのある音程なのに、声質としてはよく通る澄んだもの。
気がつけば引き込まれるように、三時間にも及ぶホラーゲーム配信が終了していた。
ゲームが始まる前の雑談からたくさんわらっていたけれど、ゲームが始まってからはもうとにかく話が面白くて、面白くて。ゲームも上手いからわたしが自分でやったら得られないであろうスピード感とハラハラ感があった。
3時間も配信してるなんて長いな、と思っていたのは見る前だけで、すべて見終えてしまったいまはあっという間だったなという感覚しかない。
そうして時間を確認して、夜中の二時だと気がついてはっとした。
寝ないと。
目が覚めたら、他のゲーム配信や雑談配信、それから引退のお知らせ配信も見よう。