「……ざっと見積もっても、これだけお金が必要だと思うの」
「結構厳しいね。でも内装とかは自分たちでやればどうにかなるんじゃない?」
「私もちょっとそう思ったんだけどね。でもいざ自分でやろうとしてもただの素人だと出来も悪いし、時間もかかると思うんだよね。
そこはやっぱりプロに頼んだ方がいいんじゃないかな」
「うーん、じゃあそこの選定は七海に任せるよ。私の方は物件を探してきたからちょっと見てほしいんだけどさ」

そう言ってあっさりと七海に内装業者の選定作業を任せると、彩夏は下見してきた物件の写真をタブレットに表示させる。
にこにこと楽しそうに物件探しと周囲の下見について語る彩夏。七海はその態度に違和感を覚えていた。

「……ねえ、思うんだけどさ、なんか楽しいとこだけ彩夏がやってない?」

明らかに棘を含んだ七海の言葉に彩夏も思わず色めき立つ。

「こっちも大変なんだよ、文句があるなら不動産屋さんとの交渉、七海がやる?」

そういった交渉事は七海の最も苦手とするところだったため、そう言われてしまえば七海には返す言葉がない。
しかし場所の選定は重要なのだ。七海は口に広がる苦いものをぐっと飲み込んで、自分が思う条件を努めて冷静に彩夏に伝える。

「観光客のアクセスを考えると、バス停とか、公共交通機関から近いところがいいと思う。もしくはサイクルロードの近くとか。
それと地元の人にも来てもらうなら移動手段は車だろうから、駐車場になるスペースが必要じゃない?」
「そっか、駐車場も必要か。それは盲点だった。ありがとね、気がついてなかった」

先ほどの気まずい雰囲気を即座に引っ込めて素直にこちらの言葉を聞き入れられるところは彩夏の良いところだった。
七海はどうしても他人に遠慮してしまうところがあるので、これまでの仕事でも損な役割をいつの間にか押し付けられていることが多かった。
しかし今回の事をきっかけにして、七海は変わろうと決心していた。
彩夏と七海はあくまで対等なパートナーなのだ。必要な事、言うべき事はたとえその場でぶつかるとしてもはっきりと伝える必要がある。
少々夢見がちな彩夏に対してビジネスとして冷静に判断することが七海の役割だと感じていた。
彩夏もそれが分かっているから、七海の意見について頭ごなしに否定することはしていなかった。

これならやっていけると思う。七海は手ごたえを感じていた。